AO受験や推薦受験の場合、面接を行う場合が多いですが、一般受験でも医療系など学部によっては面接を行う大学はあります。面接の練習は一人ではできません。誰かに練習をしてもらう必要があります。しかし相手を選ばないと的外れな練習をしてしまうこともあります。私自身、今まで何百人と面接練習をする中で失敗したと思うことがありました。何回かやればそういうことはありませんが、一度だけお願いされる場合、そういうことがたまに起きます。ただ、問題は何が失敗だったかを気づかない人もいるということです。そういう人は失敗を繰り返すので、かえって害のある面接練習になってしまう場合もあります。
 実際に本番の面接を受けてみて、それがうまくいったのかどうだったのかわからないことが多いです。学科試験や小論文ではある程度手ごたえのようなものもありますが、面接ではその手ごたえも当てになりません。大学では、難しい質問を出されたり質問に対する答えの矛盾をつかれることもあります。そういうときは、面接官は厳しい顔をしていることが多いので、本人は面接に失敗したかなと思います。あるいは、おかしな答えをしてしまい、面接官を笑わしてしまう場合もあります。そのときも本人は失敗したと思います。逆にスムーズに面接が終わって大丈夫かなと思っていると失敗だったということもあります。しかし、結果が逆の場合も多いのです。
 結果が成功か失敗かほとんどの大学ではわかりません。ただ、唯一神奈川県立保健福祉大学(以下県福)では、面接の点数を公表します。もともと面接の点が非常に高いのも特徴です。横浜市大を始め、多くの大学では面接でそれほど差をつけないと思われるのですが、この大学はかなり差をつけてきます。得点の割合も、公募制推薦の場合、100点中60点、一般受験の個別試験の場合は、学科によっても違いますが、だいたい200点中100点が面接点になります。ですから、面接が成功するかどうかが、合格の鍵になるわけです。しかも、よければ90%の得点、悪ければ50%と大きく差をつけてきますから、よほど準備をしてとりかからなければなりません。
 では、どういう準備をすればいいのか。それは、出願をするときの志望理由書を書くときから始まります。面接本番では、志望理由書を見ながら質問されることが多いので、これはとても重要になります。私が、生徒の面接練習を担当するときは、必ず志望理由書からチェックしました。志望理由書を書くときから、面接練習は始まっているとも言えます。志望理由は大きく二つに分けられます。まず一つ目は何故自分がその学部、学科を選んだのか。もう一つは何故その大学を選んだのかです。どちらも簡単には書けません。ただ、いずれにしても正直にありのままに書くことです。あまり背伸びして書くと、面接でそこを突っ込まれた時、しどろもどろになって失敗することがあります。
 しかし、ありのままを書くというのは意外に難しいものです。それには、自分が生まれてから志望の学科を目指すまで、どのように生きてきたのかを検証する必要があります。自分の人間性、家族との関係、学校での自分のキャラなどそれらを総合的に見つめ直さなければなりません。ただ、意外に難しいと言ったのは、自分のことは案外自分で気づかないことが多いものです。そこで、カウンセラーのようにその人の人間性を引き出す人が必要になります。これはかなり経験を積み、より分析的に生徒のありのままの人間性を引き出す方法を研究した人でなければできません。それも、こうしたらいいという公式のようなものがあるわけではなく、そのひと独自のやり方でやるしかありません。そういう人に出会えば、自分のいいところを引き出してもらい、ありのまままの志望理由書ができあがり、自然体で面接に臨むことができます。
 先ほども書いたように、県福では点数を公表してくれますので、数年間研究した結果、ちゃんと指導を受けてくれれば面接で落とすことはなくなりました。もちろん一般受験の場合、センター試験の割合が高いので、センター試験がボロボロでは個別試験で満点を取っても入れません。
 後は、本番でどうやってありのままの自分を出すかが問題になります。これは、ある会議で同僚が県福の先生に直接聞いたことですが、県福の面接では「志望理由」「将来像」「高校生活」「自己PR」などあらかじめ想定して練習できるものにはあまり差をつけないとのことでした。予想外の質問に対して、受験者がどういう態度でどういう答えを出すかで点数を決めてるということです。この情報は、100%信じるわけにはいきませんが、確かに志望理由に基づいた上記の四つの項目なら、まず志望理由は先生の手が入るし、予想される質問に関しては十分に練習できるわけです。それに対して、予想外の質問に対しては、受験者の本当の姿が出るというのは納得がいくものです。特に県福の場合、看護、リハビリ、社会福祉など人と関わることが多いわけです。そこで重要になるのが、相互のコミュニケーションです。実りのあるコミュニケーションが成立するにはお互いが心を開いて気持ちをぶつけ合うことが必要ですが、相手に心を開いてもらうためには、まず自分が自分の弱さをさらけ出して自分自身の心を開く必要があります。それを見て、相手も安心して心を開いてくれるのです。これまでの話は、県福の得点結果から逆算した一つの結論ですが、県福に限らず多くの大学等でこの姿勢は共通するものと言えます。ただ、大学が変われば戦略も当然変わってきます。
 繰り返しになりますが、まずは自分の人生を見つめ直して、嘘のない自分を再発見してください。とは言っても、嘘のない自分というものも一つではありません。家族や友人、恋人に対してなどウソのない自分はいくつもあります。だからこそ自分で見つけるのは難しいのです。面接では、あくまでも、自分の志望理由や学びたいこと、将来像に向けてのウソのない自分です。
 面接の本格的な練習は集中的にやれば1か月程度でいいと思いますが、日ごろから友達との会話等でも自分のありのままをできるだけさらけ出すことを心がけることを勧めます。それができていれば、本番の時に全く困ることはありません。面接官もプロです。いくらよく見える自分を演じてもそこは見破られます。