リヒターのバッハ《幻想曲とフーガ》BWV 906

 

Johann Sebastian Bach

《Fantasie und Fuge》c-moll BWV 906

 

 

 

 

  今日採り上げるのは、バッハの《幻想曲とフーガ》ハ短調 BWV 906です。

 

  此の曲は、ドイツの作曲家ヨハン・セバスティアン・バッハがライプツィヒ時代である1728年頃に作曲したとされている作品で、フーガの部分が未完の儘と成っています。惟、何故複合拍子で書かれなかったのかは謎の儘です。又、ハ短調で書かれているのですが、ハ短調という調は、他の同じ調の作品を想い浮かべるに、決して深刻な調と謂う譯ではなく、寧ろ樂しさをも含む調であり、パルティータのカプリチオや平均律曲集第2巻のプレリュードを思い出すと、實に樂しい、機嫌の良い調でもある事が分かり、此のファンタジーも同じなのではないかと謂う氣がしなくもありません。

 

  今日紹介させて頂くのは、カール・リヒターのチェンバロ獨奏に由り行われたセッション録音です。

 

      《幻想曲とフーガ》というタイトルではあるものの、フーガの部分が未完の儘であるが故に、通常は幻想曲即ちFantasieの部分のみが演奏されていて、此の録音に於いても然りです。

 

  リヒターのバッハ演奏は何と云っても峻嚴にして嚴格と謂うのが特徴で、其の演奏は後の時代にピリオド演奏という潮流が大きな影響力を持つ樣になり、彼等がリヒターの演奏をどれ程批判しようとも、多くの聽き手はリヒターを見捨てる事は無く、小生も正直云うと其の中の一人です。

  上述の通り、此の曲は決して深刻な感じではなく、寧ろ樂しさをも含んだ曲であるとも理解し得るのですが、リヒターは深刻と迄はいかないにせよ、飽くまでも嚴しいアプローチで臨んでいるのが如何にも彼らしいと謂う氣がしてなりません。其れに比べて、ピアニストのグールドは、寧ろ穩やかにして樂しさをも含んだ演奏を行っている感じなので、敢えて比較の意味合いを込めて紹介させて頂く事と致しました。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Karl Richter (Cembalo)

 

(1969)

 

  Glenn Gould (Klavier)