シュタインのハチャトゥリャーン《假面舞蹈會》
Aram Chatschaturjan
Արամ Խաչատրյան/Арам Хачатурян
《Դիմակահանդես/Маскарад》
”Maskarade” Suite
今日採り上げるのは、ハチャトゥリャーンの《假面舞蹈會》組曲です。
《假面舞蹈會》は、舊蘇聯時代のグルジア出身のアルメニア人作曲家であるアラム・ハチャトゥリャーンが、ミハイル・レールモントフの戲曲『假面舞蹈會』の為の劇附隨音樂として作曲した管弦樂作品で、後に作曲家自らの手で組曲が編まれています。
戲曲『假面舞蹈會』の物語は、帝政ロシア末期の頃の貴族社會が舞臺と成っていて、作者は此の作品を以ってロシアの貴族社會の特殊性を描き出し、且つ批判しようとしたものと思われます。
物語の粗筋は以下の樣なものです:
賭場
主人公のアルベーニンは嘗て凄腕の賭博師であったものの、妻・ニーナと靜かな生活を送っていました。併し、彼はふと久しぶりに賭博場に妻とともに出掛けます。すると、負けが込んで全財産を失う寸前の若い公爵がいて、アルベーニンは公爵の代わりに博打を打って勝ちを收め、公爵の失った財産の回收に成功します。
最初の假面舞蹈會
後日、アルベーニンはニーナと共に假面舞蹈會に赴き、公爵が或る男爵未亡人を口説いているのを目擊します。一方、ニーナは假面舞蹈會の會場で腕輪を紛失してしまいます。ニーナの紛失した腕輪は、男爵未亡人が拾い、自分を口説く公爵を煙に捲く為に上げてしまいます。公爵は自らが口説いた女からの贈り物だと自慢げに腕輪をアルベーニンに見せます。アルベーニンは其の腕輪に見覺えが有りました。
腕輪の疑惑
アルベーニンとニーナが假面舞蹈會から歸宅すると、ニーナは腕輪を紛失した事を夫に告げます。アルベーニンは公爵が自分に見せた腕輪がニーナの腕輪だと氣づき、公爵が口説いた女は妻であると疑ってしまいます。軈てアルベーニンは妻と公爵は戀仲であるとの疑惑を深め、激しい嫉妬に襲われます。愛する妻と自分が破産から救ってやった公爵との「二つの裏切り」に怒り、アルベーニンは妻の殺害を決意します。
最後の假面舞蹈會
アルベーニンは再びニーナをつれて假面舞蹈會に赴きます。彼は毒入りのアイスクリームをニーナに與え毒殺しようとします。夫が差し出したアイスクリームを何の疑いもなく食べるニーナ。終に毒が回りニーナは苦しみ始めます。アルベーニンがニーナに「彼女が公爵と不貞を働いたこと」を詰問すると、ニーナは苦しみ乍ら其れを否定し身の潔白を訴えつつ死んでしまいます。アルベ―ニンは妻を殺した途端にニーナが本當に不貞を働いたのかどうかを改めて檢討します。
幕切れ
妻への疑惑の確信が揺らぐアルベーニンの前にある男が現れます。彼は嘗てアルベーニンに賭博で破れ破産した男でした。彼は「お前が妻を殺したのだ」と詰ります。彼はアルベーニンがアイスクリームに毒を盛るところを目擊していたのでした。軈て公爵と男爵未亡人が現れ、男爵未亡人が假面舞蹈會で拾った腕輪を公爵をあしらうために差し出した事、公爵は腕輪を男爵未亡人から貰った事を夫々告白する。其の結果、ニーナの無實を知ったアルベーニンは貞淑な妻を疑った擧句殺害した罪惡に打ちひしがれ、氣が觸れてしまいます。斯うして、アルベーニンに賭博で負けた男は、偶然にも復讐に成功したのでした。
劇附隨音樂《假面舞蹈會》
劇附隨音樂として1941年に作曲され、同年6月21日にモスクワのヴァフタンゴフ劇場に於いて初演が為された全14曲から為るもので、同年に映画『假面舞蹈會』が公開されています。
組曲《假面舞蹈會》
此れは、ハチャトゥリャーンが1944年に自らの手で《假面舞蹈會》の中の5曲を選んで二管編成の管弦樂の為の「組曲」として再編成したもので、構成は以下の通りです:
- I. ワルツ
- II.ノクターン
- III.マズルカ
- IV.ロマンス
- V.ギャロップ
《假面舞蹈會》は發表時から高い評價を受けたと云われていますが、劇附隨音樂《假面舞蹈會》が演奏される事は極稀である樣です。其の一方で、組曲《假面舞蹈會》は屡演奏が為されているのみならず、現在では「假面舞蹈會を題材にした音樂」を採り上げる際には必ず言及される程の高い評價を得ている樣です。
今日紹介させて頂くのは、ホルスト・シュタインの指揮するベルリン放送交響樂團に由り1959年に行われたセッション録音です。
1959年は、地元のコレペティトールからスタートし、カイルベルト、カラヤン、クナッパーツブッシュ、ヴァント等のアシスタントを經驗した叩き上げで熟練のシュタインのキャリアの最初期に當たる年で、此の時期彼はエーリヒ・クライバーに招かれてベルリン國立歌劇場の指揮者を務める傍ら、舊東ベルリン音樂大學で教鞭を執っていた樣です。
シュタインと云えば、ワーグナーを始めとする生粹のドイツ音樂を得意とするイメージではありますが、31歳の俊英であった頃の此の演奏は、實にきびきびとしたもので、而も其の分厚い音響に壓倒されてしまうと謂う素晴らしい演奏で、斯うした一面が有った事に驚かされてしまいます。又、2曲目のノクターンに於けるヴァイオリンのソロが實に上手く且つ魅力的であるのは特筆に値するものです。
演奏メンバーは以下の通りです:
Horst Stein (Dirigent)
Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin
(1959)
(1959)