ゴルシュマンのハチャトゥリャーン《ガヤネ》
Aram Chatschaturjan
Արամ Խաչատրյան/Арам Хачатурян
《Գայանե/Гаянэ》
”Gayaneh” Suite
今日採り上げるのは、ハチャトゥリャーンの《ガヤネ》組曲です。
《ガヤネ》は、舊蘇聯のアルメニア人作曲家アラム・イリイチ・ハチャトゥリャーンの作曲した全4幕から成るバレエ作品です。
初版は1942年に、コンスタンチン・デルジャーヴィン臺本、ニーナ・アレクサンドロヴナ・アニーシモヴァ振附けで製作され、1952年にスコアが改訂され、1957年に新たな脚本で上演が為されています。
此のバレエは、ヨシフ・スターリンの前で上演された際に細やかな成功を收めたものの、蘇聯國外で上演される事は少なかった樣です。
初演は1942年12月9日にロシアのペルミで、キーロフ・バレエ團によって上演が為されています。
ハチャトゥリャーンによる原典版の《ガヤネ》は、若いアルメニア人女性の愛國心が、自らの夫が祖國を欺いていると知った時の自らの感情との葛藤を呼ぶという物語であったのが、後年に脚本に幾つかの修正が加えられ、其の結果、愛國的熱意を減らしてロマンスを強調する作品と為ったと云われています。
粗筋は以下の通りです:
コルホーズの會長オヴァネスの娘である主人公ガヤネは、地質學的な秘密を發見しようとしてソヴィエト軍の領地に密かに侵入しようとする不審者を捕らえる手傳いをしています。そんな中、情愛有るガヤネは、友人である若きアルメンの手傳いに遣って來ます。アルメンのライバルであるギコは、心ならずも敵の手傳いに人生を費やす事になるものの、最後には全てが丸く收まり、バレエのフィナーレは人々の友情と、蘇聯の國々を祝福してエンディングと成ります。
此の物語は、ソヴィエト聯邦の集團農場のシンプルな話であり、國家が世界大戰に關わっていた1940年代の氣持ちや感情を反映したものであると同時に、スパイを捕らえる事や、弱くて最初は壓力に抵抗出來得ない人々の物語でもあります。併し、無論此れは集團農業の人々の最終的な勝利の物語でもあり、人々は問題を克服し、立派に自分たちの共同體を作り出し、其の後何時迄も幸せに暮らすというものです。
改訂版に於いては、全體で50曲もの樂曲が用いられていますが、改訂時に新たに加わった曲も少なくありません(曲名及びオーケストレーション等にも一部變更が加えられています)。
原典版より使用されている樂曲
- 序奏 (曲の後半部分は、改訂版で書き加えられたもの)
- ガヤネのアダージョ
- ヌネのヴァリエーション
- 子守歌
- アイシャの目覺めと踊り
- 火焔 (改訂版でのタイトルは「嵐」)
- レズギンカ
- ガヤネとギコ
- アルメンのヴァリエーション(改訂版でのタイトルは「友情の踊り」)
- 薔薇の娘たちの踊り
- 劍の舞
改訂版で追加された樂曲
- 収穫祭
- アイシャの孤独
組曲は、原典版の初演後に3つに分けた形で編まれていて、構成は以下の通りです:
- 第1組曲
- 序奏(第4幕への序奏)
- 薔薇の娘たちの踊り
- アイシャの目覺めと踊り
- 山岳民族の踊り
- 子守歌
- ガヤネとギコ
- ガヤネのアダージョ
- レズギンカ
- 第2組曲
- 歡迎の踊り
- 抒情的なデュエット
- ロシア人の踊り
- ヌネのヴァリアシオン
- 老人と絨毯織りの場面
- アルメンのヴァリアシオン
- 火災(火焔)
- 第3組曲
- 綿花の採集
- クルドの若者たちの踊り
- 序奏と長老の踊り
- 絨毯の刺繍
- 劍の舞
- ゴパーク
原典版(全曲)の演奏される順序は下記の通りです:
- ロシア人の踊り(第2組曲)
- クルドの若者たちの踊り(第3組曲)
- 綿花の採集(第3組曲)
- 山岳民族の踊り(第1組曲)
- 歡迎の踊り(第2組曲)
- ガヤネのアダージョ(第1組曲)
- ヌネのヴァリアシオン(第2組曲)
- 老人と絨毯織りの場面(第2組曲)
- 子守歌(第1組曲)
- アイシャの目覺めと踊り(第1組曲)
- 絨毯の刺繍(第3組曲)
- 火災(火焔)(第2組曲)
- レズギンカ(第1組曲)
- 抒情的なデュエット(第2組曲)
- ガヤネとギコ(第1組曲)
- アルメンのヴァリアシオン(第2組曲)
- 序奏(第4幕への序奏)(第1組曲)
- 薔薇の娘たちの踊り(第1組曲)
- 劍の舞(第3組曲)
- 序奏と長老の踊り(第3組曲)
- ゴパーク(第3組曲)
組曲とは云いつつ、全曲を3部に再構成しただけであり、人氣の高い樂曲が3つの組曲に分散して收められているが故に、其の儘の形での演奏機會は少ない樣です。それ所か、全く違う曲の構成で「組曲」「第1組曲」「第2組曲」等と題して出版や演奏、紹介などが行われている場合も有ります。
今日紹介させて頂くのは、ヴラジーミル・ゴルシュマンの指揮するウィーン國立歌劇場管弦樂團に由り1967年?に行われたセッション録音です。
ゴルシュマンは、1893年にパリのロシア系ユダヤ人の家庭に生まれたフランス出身のアメリカ合衆國の指揮者で、幼少時にピアノとヴァイオリンを學び、スコラ・カントルムに進學し、1919年に自らコンサート「コンセール・ゴルシュマン」を企劃して同時代の作曲家の作品を積極的に指揮した後、ロシア・バレエ團に指揮者として入團し、1923年まで留まった後、1923年からはアメリカに渡り、1924年にはニューヨーク交響樂協會を指揮しています。
爾後はヨーロッパに戻ってフリーの立場で活動するも、1928年から1930年迄はスコットランド管弦樂團の首席指揮者を務め、1931年にはセントルイス交響樂團に客演したのを切っ掛けに、同オーケストラの首席指揮者に就任し、25年間此の職に留まっています。1934年にはアメリカに定住することを決意し、1947年に市民權を獲得し、1957年にはジョージ・ワシントン大學の客員教授を務め、1958年から1961年まではトゥルサ交響楽團、1964年から1970年までデンヴァー交響楽團の首席指揮者を務め、1972年にニューヨークで歿しています。
ゴルシュマンに就いて、指揮者のウォルター・ダムロッシュは、「生まれついての指揮者であり、人を惹きつける人格を持ち、ドイツの古典とフランスの近代作品の孰れにも才能を示している」と評しています。
上述の通り、全く違った曲の構成で「組曲」「第1組曲」「第2組曲」等と題して出版や演奏、紹介などが行われているケースが殆どで、此の演奏は以下の樣な構成と成ています:
1.劍の舞(第3組曲)
2.子守歌(第1組曲)
3.薔薇の娘たちの踊り(第1組曲)
4.アイシャの目覺めと踊り(第1組曲)
5.山岳民族の踊り(第1組曲)
6.クルドの若者たちの踊り(第3組曲)
7.レズギンカ(第1組曲)
ゴルシュマンの此の演奏は、ロシア的な土臭さとは對極に在るフランス風の上品で洗練された演奏で、線がはっきりとしていて曖昧さが無く、曲の持つ細微なニュアンスがくっきりと表現された秀演と云えるのではないでしょうか。
演奏メンバーは以下の通りです:
Wladimir Golschmann (Dirigent)
Orcheter der Wiener Staatsoper
※ 因みに、小生は原典版の終曲で、第3組曲の終曲でもあるゴパークが大好きなので、序でながら、敢えて作曲者自らがウィーンフィルを指揮したゴパークをも紹介させて頂く事と致した次第です。
(1967?)
(1967?)