カイルベルトのレーガー  《ビョエックリン組曲》

 

Max Reger

Böcklin Suite》 Op.128

4 Tondichtungen für grosses Orchester nach Arnold Böcklin

 

 

  今日採り上げるのは、マックス・レーガーのビョエックリンに由る4つの音詩《ビョエックリン組曲》作品128です。

 

  此の曲は、ドイツの作曲家マックス・レーガーが作曲した管弦樂組曲で、彼がマイニンゲン宮廷樂團の音樂監督を務めていた時期の1912年から1913年に7月に掛けて作曲された者です。初演は1913年10月12日にエッセンに於いて行われ、作品はユリウス・ブーツに獻呈されています。

  此れはアルノルト・ビョエックリンの4枚の繪から受けた印象を夫々音化したもので、レーガーが珍しく標題音樂の領域に足を蹈み入れた作品の一つと為る者です。カール・シュトラウベに宛てた書簡の中で、レーガーは此の作品を同時期に書かれた《バレエ組曲》("Eine Ballettsuite")作品130と共に、何れ書かれる「交響曲への最終準備」と表現しています。併し、健康的、經濟的其の他の理由から、結局レーガーが交響曲を完成させる事は有りませんでした。

 

  樂曲は以下の全4曲構成と成っています:

 

  第1曲:ヴァイオリンを弾く隠者(Der geigende Eremit

 

 

  獨奏ヴァイオリンが活躍する作品で、弦樂器が弱音器を附けたものと附けない者の二群に分けられ(《モーツァルトの主題に由る變奏曲とフーガ》に於いても同樣の手法が用いられています)、纖細な音響を作り出します。ソナタで書かれ、アルカイックなコラールを奏する弦樂に獨奏ヴァイオリンが自由な旋律で應えます。展開部は動きを増して高潮し、簡潔な再現部が續いてエンディングと成ります。

  

  第2曲:波間の戯れ(Im Spiel der Wellen

 

 

  木管樂器の活躍する浮遊的なスケルッツォで、高音を中心にした樂想に、波を思わせる低音のパッセージが差し挾まれます。中間ではオーボエの奏する牧歌的な樂想が展開されて行き、コーダはテンポを落とし、力ないワルツと成って終わります。

 

  第3曲:死の島(Die Toteninsel

 

 

  セルゲイ・ラフマニノフも同じ繪に基づいて交響詩《死の島》を殘していますが、レーガーの此の曲は、陰鬱な響きが作品を支配していて、ティンパニの奏する不氣味なリズム動機と、フルートとコーラングレのソロで提示される下降動機を中心に進行します。弱音器を伴ったコラールも遠くから聞こえものの、其れを搔き消す樣に何度も詠嘆が爆発し、軈て平安な響きの中に溶け込んで行きます。

 

  第4曲:バッカナール(Bacchanal

 

 

  題名はバッカスを稱える祭の踊りを意味するものの、同じ題名を持つビョエックリンの繪は存在しておらず(但し、"Bacchantenfest"というバッカスを稱える祭を描いた繪が存在している事から、其れが元になっているとされています)。色彩感豊かな力強い舞曲で、先行する各曲の動機も用いられます。「グラツィオーゾ」と指示された木管樂器を中心とする短いエピソードも顔を出しはするものの、直ぐに舞曲のリズムに戻り、細かいパッセージが渦捲く熱狂的なコーダでエンディングと成ります。

 

  今日紹介させて頂くのは、ヨーゼフ・カイルベルトの指揮するプラハ・ドイツ・フィルハーモニー管弦樂團に由り1942年に行われたセッション録音です。

 

  プラハ・ドイツ・フィルハーモニー管弦樂團は、1940年にチェコ(当時はナチス・ドイツ支配下のベーメン・メ―レン保護領)のドイツ系住民に由って創立されたオーケストラで、ドイツ敗戰後の1945年にドイツ人追放に由りチェコからドイツへ逃れた同樂團の樂團員が集結して結成されたのがバンベルク・トーンキュンストラー管弦樂團、即ち後のバンベルク交響樂團です。

 

  カイルベルトはレーガーの作品を得意としていた樣で、此の曲以外にも、《バレエ組曲》、《ヒラ―の主題に由る變奏曲とフーガ》、《モーツァルトの主題に由る變奏曲とフーガ》等を初めとする後期傑作のセッション録音を殘してくれています。

  後期ロマン派の香が濃厚で、印象的なメロディーに乏しいが故に「晦澁」と稱されるのが一般化しているレーガーの作品ではありますが、ベートーヴェンやブラームスの後繼者と云われるに相應しく、ドイツ音樂特有の重厚な響きを好むファンにとっては欠かす事の出來ないものであると云えましょう。斯うした正にドイツ的な音樂を物の見事に體現してくれているのがカイルベルトであるに外為りません。而も質實剛健其の物と云い得る嘗てのバンベルク響の其の前身である此のオケの音が鑑賞出來るというのも一つの醍醐味なのではないでしょうか?成立後間も無いという意氣込みや時代というのも關係しているのやも知れませんが、バンベルク響以上の味わい深さとしなやかさが感じられます。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Joseph Keilberth (Dirigent)

  Deutschen Philharmonischen Orchesters Prag

 

(1942)