ストコフスキーのイベール 《寄港地》

 

Jacques Ibert

《Escales》

3 Tableaux Symphoniques/Suite Symphonique

 

 

 

  今日採り上げるのは、イベールの交響組曲(3つの交響的繪畫)です。

 

  此の曲は、フランスの作曲家ジャック・イベールが1922年に完成させた管弦樂曲で、ローマ大賞受賞に由るローマ留學中に提出されたイベールにとって出世作と為ったものです。

  イベールは1910年にパリ音樂院に入學していたものの、在學中の1914年に第一次大戰が勃發するや、志願して海軍士官に成ると謂う經歷の持主で、戰爭中に海軍士官として地中海を航海し、各地に寄港した際に接した異國の風物の見聞や、ローマ留學中のスペイン旅行から得た印象が此の曲に盛り込まれています。

 

  初演は、1924年1月6日、ポール・パレーの指揮するコンセール・ラムルー管弦樂團に由って行われ、1948年にはセルジュ・リファールに由る3場のバレエとしての初演が為されています。

 

  樂曲の構成は以下の通りです:

 

  第1曲「ローマ ― パレルモ」(Rome-Pelerme)

  ローマを出航し、地中海をシチリア北岸の港パレルモへと向かう航海の描寫で、弱音器を附けた弦樂合奏で始まり、フルートが海の情景を描き出し、音樂が徐々に高まるとトランペットがタランテラを導入して南國の喧騷の情景が描かれます。そして、南國の喧騷が靜まると、冒頭の海の情景が回歸して曲が閉じられます。

  

  第2曲「チュニス ― ネフタ」(Tunis-Nefta)

  リズミカルな中庸の速度で、テインパニとコル・レーニョやピッツィカートを交えた弦樂の伴奏に乘せて、終始オーボエがアラビア風のエキゾチックな旋律を自由に展開しつつ奏でます。此れはチュニジアの港町チュニスから、南の奥地の町ネフタへ向かう旅の情景です。

 

  第3曲「バレンシア」(Valencia)

  打樂器を交えた色彩豊かなスペイン舞曲セキディーリャのリズムに乘せて、多彩な主題が登場します。中間部での弛緩を經て、曲は再び活氣を増し、交錯する主題の中で激しさと興奮を加えて全曲が閉じられます。此れはスペイン東部の港町バレンシアの情景です。

 

  今日紹介させて頂くのは、レオポルド・ストコフスキーの指揮するフランス國立放送管弦樂團に由り1958年?に行われた演奏會におけるライヴ録音です。

 

  ストコフスキーは同1958年5月13日に同オケを指揮して此の曲のセッション録音を行っている事から、其の前が或いは後に行われた演奏會のライヴであろうと思われます。フランスの名門オケを指揮した演奏であるだけに、ラテン・サウンド全開と謂った感じで、而も計算され盡した展開は、ダイナミック且つスリリングで、冒頭からして思わず引き込まれてしまいます。それにしても、ストコフスキーと謂う指揮者は、演奏する曲の本質と謂うか神髓を知り盡くしている上に、聽衆の趣味もしっかりと捉えていて、聽かせ上手な演奏を繰り擴げる術を心得ている樣子が犇々と傳わって來る感じがします。上述のセッション録音も素晴らしいのですが、其れにも益して此の演奏の臨場感が何とも云えません。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Leopold Stokowski (Dirigent)

    Orchestre national de la radiodiffusion Française

 

(1958.05 Live-Aufnahme)

(1958.05 Live-Aufnahme)