アンセルメのラヴェル  《マ・メール・ロワ》

 

Maurice Ravel 

Ma mère l'Oye

L'œuvre pour orchestre symphonique

 

 

  今日採り上げるのは、ラヴェルの管弦樂組曲《マ・メール・ロワ》です。

 

  《マ・メール・ロワ》は、フランスの作曲家モーリス・ラヴェルが「マザー・グース」を題材にして作曲したピアノ4手聯彈の組曲、又は其れをベースとした管弦樂組曲及びバレー音樂です。

 

  オリジナルの聯彈曲は、子供好きの(併し獨身であった)ラヴェルが、友人であるゴデブスキ夫妻の2人の子、ミミとジャンの為に作曲し、此の姉弟に獻呈されています。

  1908年から1910年に掛けて作曲が為された此の作品は、1910年4月20日にパリ・ガヴォーホールで開かれた獨立音樂協會(SMI)の第1回演奏會に於いて初演が行われています。本來はミミとジャンが彈く事を想定して作曲されたものの、其れでも幼い姉弟が演奏するには難しかったが為に、マルグリット・ロンの弟子、ジャン・ルルーとジュヌヴィエーヴ・デュロニーに由って演奏が為されています。

  因みに、「親指小僧」「パゴダの女王レドロネット」「美女と野獸の對話」には、原作から短文が引用・附記されています。

 

  管弦樂組曲版は、ラヴェル自らが聯彈組曲を其の儘管弦樂編曲したもので、1911年初頭に編曲が為されています。そして、終曲の「妖精の園」はラヴェル一流のオーケストレーションによる壯麗な大團圓で全曲が締め括られます。

 

  第1曲 眠れる森の美女のパヴァーヌ(Pavane de la Belle au bois dormant)
  邪惡な妖精の呪いを受けて長い眠りについた王女の寝台のまわりで宮廷に仕える男女がゆっくりと踊るパヴァーヌです。しみじみとしたフルートの音で始まり、色々な樂器に歌い繼がれて行きます。メロディーには東洋風の雰圍氣も漂っています。

  第2曲 親指小僧(一寸法師)(Petit poucet)
  家が貧しいが為に森に捨てられる一寸法師は、こっそりと道々にパンくずを撒いて置くのですが、森の小鳥に食べられてしまい、道に迷ってしまうという物語を描いています。ちょっと不安げな氣分の漂う曲で、後半には小鳥の囀り聲の描寫が入ります。

 第3曲 パゴダの女王レドロネット(Laideronnette, impératrice des pagodes)
  パゴダというのは,中国製の陶器で出來た首振人形の事を指す者で、其の人形の女王のレドロネットの入浴中に此の人形達が小さな樂器を奏でて女王を慰めるというお話です。ここでは中國風の音階が全面的に使われていて、「西歐から見た中國」の雰圍氣が良く出ています。
  軽快なリズムに乗ってフルートが中國風のメロディーを吹き始め、其れを他の木管樂器群が引き繼いで行きます。マリンバなどが活躍した後,銅鑼がゴーンと鳴る渡邉りが「如何にも中國的」です。

  第4曲 美女と野獸の對話 (Les entretiens de la Belle and de la Bête)
  魔法使いの呪いで野獸に變えられてしまった王子と姬との對話を描いた音樂で、姬はクラリネットの輕妙なメロディー、野獸の方はコントラ・バスーンの重低音で描かれ、此の極端な對比がとてもユーモラスです。
  其の後、シンバルの一擊で魔法が解ける事に成り(野獸の求婚を姬が受け入れたことを表現しています)、ハープのグリッサンドの後、野獸は王子の姿に戻ります。

  第5曲 妖精の園 (Le jardin féerique)
  バレエ版で使われる前奏曲や間奏曲の中のメロディで始まります。此の「妖精の園」というのは「眠れる森の美女」が王子の接吻に由って眠りから覺めるシーンの事指すもので、しっとりと始まった後、次第にクレッシェンドし、最後はキラキラと煌く樣な音が溢れ、暖かく祝福するようなクライマックスとなります。途中に出て來るヴァイオリンのソロも素晴らしいものです。

 

  今日紹介させて頂くのは、エルネスト・アンセルメの指揮するアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦樂團に由り1940年2月19日に行われた演奏會に於けるライヴ録音です。

 

  重量感が有り、輪郭をはっきりと表現した油繪的で強い印象の殘る演奏です。兎にも角にもセンス滿点で、オケの機能に關しては無論云う迄も無く、オーボエを初めとする管樂器の音色が素晴らしく、オランダの名門オケでありながら、フランス的な傳統美に溢れているのが素晴らしいと云えましょう。

 

  尚、此の演奏は通常の管弦樂組曲版とは異なり、第1曲の眠れる森の美女のパヴァーヌの前に前奏曲と第1場の紡車の踊りと情景を加えるというバレエ版を應用した形が採られている點が如何にもアンセルメらしいと云って差支え無いでありましょう。

 

 

  

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Ernest Ansermet (Dirigent)

    Concertgebouw-Orkest Amsterdam

 

(1940.02.19 Live-Aufnahme)

 

(1940.02.19 Live-Aufnahme)