ミュンシュのラヴェル   《ダフニスとクロエ》Nr.2 

 

Maurice Ravel 

Symphonie chorégraphique

《Daphnis et Chloé》Suite Nr.2 M.57b

 

 

 

  今日採り上げるのは、ラヴェルの《ダフニスとクロエ》第1組曲です。

 

  《ダフニスとクロエ》は、1912年にバレエ・リュス(ロシア・バレエ團)に由って初演された、ミハイル・フォーキン振附に由るバレエ、又は此のバレエの為にフランスの作曲家モーリス・ラヴェルが作曲したバレエ音樂です。フォーキンの振附は後世に傳わる事は無かったものの、ラヴェルが1909年から1912年にかけて作曲したバレエ音樂はオーケストラの重要なレパートリーの一つして演奏され續け、樣々な振附家がラヴェルの音樂に合わせた獨自の振附に由るバレエを製作しています。

 

  此のバレエの為にラヴェルが作曲したバレエ音樂は混聲合唱を含む大編成の管弦樂曲で、、1時間近い演奏時間はラヴェルの作品の中で最も長い者となっています。ライトモティーフの手法を用いて巧みに構成されていて、ラヴェル自身は「舞蹈交響曲」(Symphonie chorégraphique)と形容しています。ラヴェルの傑作の一つとして高く評價され、バレエ音樂全曲や作曲者自身による組曲がオーケストラの重要なレパートリーの一つと成っていて、就中『ダフニスとクロエ 第2組曲』は、ラヴェルが作曲に1年を費やした終幕の「全員の踊り」を含む第3場の音樂を殆ど其の儘拔き出した者で、此の形での演奏頻度が高い樣です。

  

  バレエの筋書は、古代ギリシャのロンゴス(2-3世紀)に由る『ダフニスとクロエ』の、主に前半(第1巻・第2巻)のエピソードに基づいた者です。

  尚、バレエ音樂の内容に關しては、後日バレエ篇として全曲を紹介させて頂く際に詳しく書かせて頂く預定でして、組曲篇に於きましては、第1組曲並びに第2組曲と謂う形で採り上げさせて頂きます。

    

  ラヴェルの樂曲《ダフニスとクロエ》には、バレエ音樂全曲(1912年初演、1913年出版)以外に、バレエ音樂に基づく3種類の組曲が存在していて、樂譜は全てデュラン社から出版されています。

 

  其の3種類の組曲の内容は以下の通りです:

 

  《ダフニスとクロエ》第1組曲

 

  以下の3つの部分から成り、切れ目無く演奏されます。

  • 夜想曲(Noctune
  • 間奏曲(Interlide
  • 戦いの踊り(Danse guerrière

  《ダフニスとクロエ》第2組曲

 

  以下の3つの部分から成り、切れ目無く演奏されます。

  • 夜明け(Lever du jour
  • 無言劇(Pantomime
  • 全員の踊り(Danse générale

  第3場の音樂を略其の儘拔き出した者で、バレエ初演の翌年に當たる1913年に出版が為されていますが、初演に就いては今猶不明です。「第2組曲」はオーケストラにとって重要なレパートリーの一つとして今日に至っていて、管弦樂作品としての《ダフニスとクロエ》は「第2組曲」の形で採り上げられる機會が最も多い樣です。 合唱を省略することが可能で、其の部分の必要な代替處置がパート譜に記されています。

  

  ピアノソロの為の組曲

  

 以下の3曲から成り、バレエの初演が行われた1912年に出版が為されています。

  • ダフニスの優雅で輕やかな踊り(Dance de Daphnis
  • 夜想曲、前奏曲と戰いの踊り(Noctune. Interlide. Danse guerrière
  • ダフニスとクロエの情景(Scene de Daphnis et de Chloé

 

  上述の3種類の組曲中の第2組曲は、ラヴェルの曲の中でも最も有名で、其のラヴェルの作品の持つ幻想的且つ刺激的なフレーズは、何時聽いても新鮮な感覺を味わわせてくれる不思議な魅力を具えています。

 

  1.夜明け:

  フルート等の木管樂器が朝靄の樣な、微睡んだフレーズを演奏すると、次第に明かりが差し込むように弦樂器も盛上がって行きます。弦樂器の演奏も落ち着いてくると、小鳥達が囀るが如くにオーボエやフルート、クラリネットが夫々フレーズを重ねて行きます。そして、木管樂器を從えた弦樂器が大きなうねりを作り乍ら更に曲を盛上げて行きます。次第に大きくなる音はシンバルの響きを加えると最高潮に達し、トライアングルが其れを飾るかの樣にキラキラとした響きを聽かせます。

  2.無言劇:

  幻想的な弦樂器の柔らかい音が續きます。ハープがポロンと響くと、オーボエが其れに續き、フルートそしてクラリネットが伸びやかなフレーズを演奏すると、鮮やかな弦樂器が入ります。曲は少し怪しげな表情を覗かせると、フルートのソロが凛とした響きを聽かせます。妖艶でゆったりとしたソロを聽かせるフルートが頗る魅力的です。軈て、トライアングルがチリーンと鳴るとフルートのソロが急に慌しく成り、何處かへ逃げて行く樣に走り出します。逃げ出したフルートが漸く落ち着いてゆっくりになると、鮮やかな弦樂器が現れ、ハープのフレーズと共に幻想的な空間を作り出して行きます。

 

  3.全員の踊り:

  弦樂器が大らかなトランペットと共に大きなフレーズを奏でると、大なスケールを感じさせます。併し、急に足早なフレーズが續いて緊張感が漂って來ます。クラリネット、フルートがフレーズを續けると、其れにトランペットが加わり、曲はどよめきを交える樣にしながら、次第に盛り上がって行きます。トランペットが煌く稲光のように差し込むと、バスドラムも大きくリズムを取り、木管樂器達も怯える樣にざわつき始めます。一旦靜かに成るものの、其れは嵐の前の靜けさの樣で、直ぐに又迫り来るようなオーケストレーションが續き、シンバル、トランペット、トロンボーンが派手に鳴らしつつ盛り上がってラストを飾ります。

  

  今日紹介させて頂くのは、シャルル・ミュンシュの指揮するパリ管弦樂團に由り1968年の9月から10月に掛けて行われたセッション録音です。

 

  有名で演奏會でも良く採り上げられる曲であるだけに、夥しい數の名演が殘されていますが、フランス的なる者を體現して猶トップクラスの演奏の1つが此のミュンシュ/パリ管の者であると云って差支え無いでありましょう。先ず冒頭の、木管アンサンブルからして壓巻で、當時のフランス・オールスター達の奏でる一絲亂れぬアンサンブルと見事な表現力は流石だと云い得ましょう。其の後も、靜かに、緩やかに進行し乍ら弛緩せず、クールな表現を維持しつつ、全く破綻の無いフォルテッシモへと到達します。正に「世界に誇れるフランスのオーケストラ」の意地とプライドを見せつけられる思いが致します。フレーズの身の熟しが變幻自在である事からして、此の曲がミュンシュの十八番であった事が窺えます。ミュンシュはボストン交響樂團とも此の曲の録音を殘していますが、フランス的魅力とスリリングさという點に於いて、矢張り此のパリ管との者の方がより面白いと思います。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Charles Munch (Dirigent)

    Orchestre de Paris

 

(1968.09.21,24,26,28&10.02-3)

 

(1968.09.21,24,26,28&10.02-3)