アースのドビュッシー   《ベルガマスク》組曲

 

Claude Achille Debussy 

 《Suite Bergamasque》L.75

 

 

 

 

  今日採り上げるのは、ドビュッシーの《ベルガマスク組曲》です。

 

  《ベルガマスク組曲》は、フランスの作曲家クロード・ドビュッシーが1890年から1905年に掛けて作曲したピアノ獨奏曲です。

  

  親しみ易い曲想で知られ、就中、第3曲「月の光」はドビュッシーの作品の中でも最も有名で、單獨での演奏機會も多い樣です。

  1890年頃に作曲されたものの、1905年に改訂版が出版されています。初期の作品で、和聲法や旋律の感覺及びピアノの書法に、グリーグ、マスネ、フォーレ等の先人の影響が未だはっきりと認められます。

  タイトルの「ベルガマスク(「ベルガモの」、或いは「ベルガモ舞曲」の意)」は、ポール・ヴェルレーヌの詩集『豔なる宴』(Fêtes galantes)に收録されている詩「月の光」(Clair de lune)の、"Que vont charmant masques et bergamasques"(現われたる豔やかな假面喜劇者たちとベルガモの踊り子達は)と謂う一節に使用されている言葉であるそうです。又、此れに基づくフォーレの歌曲《月の光》(1886年-1887年)が有り、其の伴奏の一部に似た音形が《ベルガマスク組曲》の「前奏曲」に登場する事等から、ドビュッシーがヴェルレーヌやフォーレを意識したことが窺えます。同じ詩にはドビュッシーが其の初期に單曲として歌曲を作曲していて、當時彼の心を射止めていたヴァニエ夫人に獻呈されています。そして、其の歌曲は改訂され、前述のヴェルレーヌの詩集による歌曲集「豔なる宴」に收録されてはいるものの、此の組曲中の「月の光」は、此の歌曲版とは全く異なる音樂と成っています。

  當初、ドビュッシーは《假面》(Masques)(前述の詩に基づくもの)及び《喜びの島》(L'Isle joyeuse)を此の『ベルガマスク組曲』の中に加えようとしたのですが、出版社の都合で夫々單獨で出版されています。

 

  第1曲「前奏曲」(Prélude)

  冒頭部分は旋律と低音が反進行する形で進み、中間部では教會旋法の一種であるエオリア旋法で書かれています。

 

  第2曲「メヌエット」(Menuet)

  冒頭部分のスタッカートを中心とした輕快な主題は、教會旋法の一種であるドーリア旋法で書かれています。

 

  第3曲「月の光」(Clair de Lune)

  殆どがピアニッシモで演奏される夜想曲で、優しく切ない曲想で有名です。中間部の優雅な旋律は教會旋法の一種であるミクソリディア旋法が採用されています。尚、1900年から1901年に掛けて出版されたドビュッシーの「夜想曲」に掲載された當曲集の廣告では、當初のタイトルは「感傷的な散歩道(Promenade sentimentale)」と成っていたのが、後に此のタイトルに變えられたと云います。

 

  第4曲「パスピエ」(Passepied)

  終曲であり、再びバロック舞曲に由っています。パスピエは一般に8分の3拍子なのですが、此の曲は4分の4拍子と成っています。此方も當初のタイトルは「パヴァーヌ(Pavane)」と為っていて、パスピエであり乍ら4分の4拍子であるのは其の名殘である樣です。

 

  今日紹介させて頂くのは、モニク・アースのピアノに由り1970年に行われたセッション録音です。

 

  生粹のパリジェンヌで、パリ音樂院でジョセフ・モルバンとラザール・レヴィに師事し、1927年に首席と成ったモニク・アースは、ルドルフ・ゼルキンやロベール・カサドシュの許でも研鑽を積み、世界中で演奏活動を續け、就中ドビュッシー以降の20世紀音樂の演奏で名聲を得ていて、彼女のドビュッシーはフランス人とは思えぬ程にくっきりとした運指と中庸な作品解釋が魅力的です。明晰な解釋と技巧に由る多彩な表現を以ってしてのドビュッシーの精緻なメロディーとリズムに由る心象表現は見事と云うより外無く、硬軟強弱の絶妙なタッチから響き渡る美しい餘韻も聽き應え充分です。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Monique Haas (Klavier)

 

(1970)