アンセルメのフォーレ   《マスクとベルガマスク》

 

Gabriel Urbain Fauré

Masques et Bergamasques》Suite Op.112

 

 

 

 

 

  今日採り上げるのは、フォーレの《マスクとベルガマスク》作品112です。

 

  《マスクとベルガマスク》は、フランスの作曲家ガブリエル・フォーレがモナコ大公アルベール1世の依頼に由り1919年に作曲した舞臺音樂、及び其れを基にした管弦樂組曲です。

 

  原作はポール・ヴェルレーヌの詩集『豔なる宴』で、臺本はルネ・フォーショア、演出はラウル・ギュンスブールに由るものです。

  初演は1919年4月10日にレオン・ジェアンの指揮に由りモンテカルロに於いて行われています。

 

  物語の粗筋は、イタリア演劇の登場人物である喜劇役者アルルカンやコロンビーナ達が舞臺装置の上で樂しんでいると、普段は觀客の役である役者達が遣って來ます。そして普段は目立たない彼らの方が劇を演じ、喜劇役者達を樂しませる事に成りると謂う者です。

 

  當初、此の作品が數多く演奏される事は無いであろうと考えたフォーレは、劇中で使用される樂曲の大半に、過去に作曲した管弦樂曲や合唱曲、歌曲を用いました。全8曲のうちの4曲(3, 4, 6, 8)は過去の作品の再利用であり、2曲(1, 7)には基と成った作品が存在するが為に、完全な新曲は2曲(2, 5)のみと成っています。

  1. 序曲(Ouverture) - 1868年作曲の「交響的間奏曲」が基になっている。
  2. パストラール(Pastorale) - 1919年作曲の新曲。
  3. マドリガル(Madrigal) - 1883年作曲の合唱と管弦樂の曲(作品35)。
  4. 一番樂しい道(Le plus doux chemin) - 1904年作曲の歌曲(作品87-1)。
  5. メヌエット(Menuet) - 1918-19年作曲の新曲。
  6. 月の光(Clair de lune) - 1887年作曲の歌曲(作品46-2)。
  7. ガヴォット(Gavotte) - 1869年に作曲された未發表のピアノ曲が原曲。
  8. パヴァーヌ(Pavane) - 1886-87年作曲の管弦樂曲(作品50)。

  フォーレは上記の樂曲の中から、作品番号を持つ舊作を除いた「序曲」「メヌエット」「ガヴォット」「パストラール」の4曲を拔き出し、管弦樂組曲に編曲していて、パストラールは全曲版と順番が異なる形で最後に配置されています。初演は1919年11月16日に行われています。

  因みに、原曲は今では殆ど忘れ去られてしまっている樣で、後に編んだ「組曲」の方が生き殘る事と成っています。

 

  組曲の内容は以下の通りです:

    

  1. 序曲(Ouverture)

  2. メヌエット(Menuet) 

  3. ガヴォット(Gavotte) 

  4. パストラール(Pastorale) 

  

  今日紹介させて頂くのは、エルネスト・アンセルメの指揮するスイス・ロマンド管弦樂團に由り1961年2月に行われたセッション録音です。

 

  アンセルメの演奏の優れた點は、何と云ってもオーケストラの響きのバランスの良さ、そして造形の確かさと響きの美しさでありましょう。特に響きに關しては、フランス音樂と聞いてイメージする薄味な響きではなくして、十分に豔の有る豊かな響きであることが魅力的です。
  謂わば、香水の香りが漂う樣な響きであると云い得るのかも知れません。そして、其れは餘り演奏される機會が多くはないフォーレの管弦樂曲に於いて然りで。しかもフォーレであれば、其の豔やかな美しい響きがより作品に魅力を添える事に成ります。

  アンセルメという指揮者は音樂の中に要らぬ「ドラマ性」を持ち込もうとはせず、スコアに書かれている音樂の姿を精緻に、そして其の造形を損ねる事の無い樣にするならば、其の音樂に作曲家の託したドラマ性は自ずと聽き手に傳わると確信していて、其れは常に極上の響きに由って實現されていたのです。
  其れ故に、こう謂うアンセルメの演奏を聽いてしまうと、其れ以外の指揮者の多くは作品を分かり易く傳え樣として、彼是と小細工を施している事に氣附づかされます。尤も、其の小細工が小細工でなく、本來のドラマ性をクッキリと浮かび上がらせるものならば其れは其れで納得は行くのでしょうが、そう謂う演奏は餘り多くないというのが實態なのです。
  そして、アンセルメがフランス音樂のスペシャリストと云われるのは、斯うしたアンセルメの方向性の持つ所の正当性故であると云えるのではないでしょうか。
 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Ernest Ansermet (Dirigent)

  L'Orchestre de la Suisse Romande

 

(1961.02)