カラヤンのドリーブ    《コッペリア》

 

Léo Delibes

Coppélia》Suite

 

 

  今日採り上げるのは、ドリーブのバレエ《コッペリア》の組曲です。

 

  《コッペリア》は、動く人形を題材としたバレエ作品、及び其の人形の名前で、音樂はフランスの作曲家レオ・ドリーブ、振り附けはアルテュール・サン=レオンに由るものです。原題は『コッペリア、或いは琺瑯質(エナメル)の目を持つ乙女』(Coppélia, ou la Fille aux yeux d'émail)と謂うものです。

  此れは、E.T.Aホフマンの物語『砂男』にヒントを得たもので、『砂男』は人形に戀した男の狂氣性を前面に押し出した物語なのですが、『コッペリア』は其の狂氣性を抑え、陽気で明るい喜劇として再構成されています。

 

  登場人物は以下の通りです:

  • スワニルダ:村の娘、フランツの戀人
  • フランツ:村の青年で、人形と知らずにコッペリアに戀をします
  • コッペリウス:コッペリアを造った博士
  • コッペリア:コッペリウス博士が造った自動人形
  • 友人たち:スワニルダの友人たち、スワニルダとともにコッペリウス邸に忍び込んだり、さまざまなシーンでスワニルダと行動を共にします

  バレエ作品では人形のコッペリアやコッペリウス博士は重要な役ではあるものの、飽くまで主役はスワニルダとフランツです。


  因みに、初演は、パリ・オペラ座で1870年5月25日に行われています。

 

  物語の粗筋は以下の樣なものです:

 

  第1幕

  場所はポーランドの農村。

  人形作り職人のコッペリウスは陰氣で氣難しく、村人から變人扱いされています。彼の家の二階のベランダでは、コッペリウスが作った絡繰り人形の少女、コッペリアが坐って本を読んでいますが、村人はコッペリアが人形であることを知りません。

  コッペリウスの向かいに住むスワニルダは明るく無邪氣な人氣者の少女で、村の青年フランツとは戀人同士です。併し最近フランツは、可愛らしいコッペリアが氣になっている樣子で、其れに氣附いたスワニルダは燒き餅を燒き、此れが切っ掛けで二人は喧嘩してしまいます。或る時コッペリウスは町に出かけようとしますが、家の前に鍵を落として行ってしまい、其れに氣附くいたスワニルダと友人たちは、好奇心からコッペリウスの家に侵入します。

 

  第2幕

  コッペリウスの家。

  薄暗い室内には樣々な人形達が所狹しと並べられています。スワニルダと友人達は室内を探索し、コッペリアも亦た人形であった事に氣附きます。折惡しく戻って來たコッペリウスに怒鳴られて友人たちは逃げ去って行きますが、スワニルダのみコッペリウスに氣附かれる事無く室内に身を隱します。其處へ知らずにフランツも、コッペリア逢いたさの為に梯子傳いに窗から忍び込んで來て、フランツもコッペリウスに見つかってしまいます。

  コッペリウスは當然怒りますが、一計を案じてフランツに眠り藥を混ぜたワインを飲ませ、醉っ拂った彼から命を拔いて自信作の人形、コッペリアに吹き込もうとすします。其の一部始終を見ていたスワニルダは、コッペリアに成り濟まして、コッペリウスを散々揶揄い惡戲の限りを盡くします。此の大騷ぎにフランツも目を覺まし、コッペリアの正體を悟ってスワニルダと仲直りします。

 

  第3幕

  村の祭りの日。

  仲直りしたフランツとスワニルダは、目出度く結婚の日を迎え、賑やかな祝宴が始まります。其處へ人形を壞されてカンカンに怒ったコッペリウスが怒鳴り込んで來るのですが、二人の謝罪と村長の執成しに由って彼も機嫌を直し、二人を祝福します。

  祝宴も本番となり「時」「曙」「祈り」「仕事」「結婚」「戦い」「平和」と踊りが續き、最後は登場人物全員によるギャロップによるフィナーレを迎えます。

 

  尚、演出に由っては、最後にコッペリアが本當に人間になるものや、祝宴の賑わいを餘所に一人呆然と立ち盡すコッペリウスの足許にばらばらに壞れたコッペリアだけが殘され、其の儘幕が下りるもの等も有る樣です。

 

  樂曲の構成は以下の通りです:

 

  第1幕

  1. 前奏曲とマズルカ
  2. ワルツ
  3. 情景~
  4. マズルカ
  5. 情景
  6. 麥の穗のバラード
  7. スラブの主題による變奏
  8. チャルダーシュ(ハンガリー舞曲)
  9. bis 退場
  10. 終曲

  第2幕  

  1. 間奏曲~情景
  2. 情景~
  3. 情景~
  4. 機械仕掛けの人形の音樂
  5. bis 情景
  6. 情景
  7. 酒の歌と情景
  8. 情景
  9. bis 人形のワルツ
  10. 情景
  11. ボレロ
  12. ギーグ
  13. 終曲

  第3幕

  1. 鐘の行進曲
  2. 鐘の祝祭―ディヴェルティスマン(餘興)
    1. 時のワルツ
    2. 祈り
    3. 仕事(絲を紡ぐ娘)
    4. 結婚(婚約者達)
    5. 戦い(戰士達の行進)
    6. 平和(パ・ド・ドゥ)
    7. 祭りの踊り(スワニルダのパ・スル)
      【挿入曲】フランツのパ・スル
    8. 終曲のギャロップ

 

  今日紹介させて頂くのは、ヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮するベルリン・フィルハーモニー管弦樂團に由り1961年4月に行われたセッション録音です。

 

  此の曲を演奏した録音には、バレエ全曲録音、拔粹録音、組曲録音の3種類が存在していますが、此のカラヤンのものは組曲版です。

  カラヤンはキャリアからすれば、オペラは數多く手掛けてはいるもの、バレエ指揮者であるとは云い難いと思います。チャイコフスキーの3大バレエにしても、バレエ音樂には欠かせないリズムを主体にしたものではなくして、橫のメロディーを艶やかにする方向に向かっている事から、寧ろ「シンフォニックな演奏」と云う方が相應しいのではないでしょうか。とは云え、流石は演出の上手いカラヤンの事ですから、リズムが橫に流れたり、アゴーギクを效かせ過ぎてはいるものの、親しみ易いメロディーはしっかりと聽かせてくれています。又、BPOはソロが實に上手く、殊にフルートは他の追隨を許さぬ絶品と云って差支え無いでありましょう。兎にも角にもカラヤン美學の結晶である事に間違いは有りません。惟、隨處に現れるカラヤン特有のレガートに就いては、好みの分かれる部分では有りましょう。 

 

  組曲は以下の通りの全6曲構成と為っています:

 

  1. 前奏曲とマズルカ

  2. 情景とスワニルダの圓舞曲 

  3. チャルダーシュ

  4. 情景と人形の圓舞曲 

  5. バラード

  6. スラヴ民謡の變奏曲 

  

  因みに、バレエ音樂としては、矢張りバレエと超得意としたアンセルメが素晴らしい演奏を殘してくれており、此れに關しては、後日『バレエ篇』として全曲録音を採り上げさせて頂く所存です。 

 

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Herbert von Karajan (Dirigent)

  Berliner Philharmonisches Orchester

 

(1961.04.25-28)