クリュイタンスのビゼー   《アルルの女》Suite II

 

Georges Bizet

L'Arlésienne》Suite II

 

 

 

  今日採り上げるのは、ビゼーの《アルルの女》第2組曲です。

 

  第1組曲がビゼー自ら通常オーケストラ向けに編成を擴大して組曲としたものであるのに對し、第2組曲はビゼー死後の1879年に彼の友人エルネスト・ギローの手に由り完成されたものです。ギローは管弦樂法に長けていたのみならず、ビゼーの管弦楽法の癖についても良く把握していて、『アルルの女』以外の樂曲をも加えて第1組曲と同じ樣なオーケストラ編成で編曲を行っています。

 

  樂曲の構成は以下の通りです:

 

  第1曲『パストラール』(Pastorale)

  第2曲『間奏曲』(Intermezzo)

  第3曲『メヌエット』(Minueto)

  第4曲『ファランドール』(Farandole)

 

  第1曲の『パストラール』は、劇附随音樂第7曲の導入曲及び合唱から取られたもので、元々二部に分かれていた曲を、ギローは三部形式に構成し直しています。

  第2曲の『間奏曲』は、劇附随音樂第15曲の導入曲から取られたもので、中間部のアルト・サクソフォーンに由る敬虔な旋律は、『神の仔羊』という歌曲としても歌われました。

  第3曲の『メヌエット』は、《アルルの女》と云えば此の曲!と聯想される程有名な曲ですが、其の實ビゼーの歌曲『美しきパースの娘』の曲をギローが轉用し且つ編曲したもので、フルートとハープに由る美しい旋律が展開されます。

  第4曲の『ファランドール』は、劇附随音樂第21曲のファランドール等からギローが終曲として構成したもので、プロヴァンス民謡『3人の王の行列』(短調)に基づく旋律とファランドールが組み合わされ、熱狂的なクライマックスを築き上げます。『ファランドール』の輕快な旋律は、民謡『馬のダンス』(長調)に基づくものです。

  尚、樂器編成としては、通常の二管編成(但しサクソフォーンが加わる)に擴大され、金管樂器が大幅に追加されています。又、ハルモニウムは省かれ、ハープが追加されています。  

 

  今日紹介させて頂くのは、アンドレ・クリュイタンスの指揮するパリ音樂院管弦樂團に由り1964年1月に行われたセッション録音です。

 

  アンドレ・クリュイタンスは、1905年にベルギーのアントウェルペンで代々音樂家の家系に生まれ、主としてフランスで活躍した指揮者で、音樂家の父親より音樂教育を受けて育ちます。ベルギーは多言語國家で、ドイツ語は王室の公用語でありながら、使用人口が1%であったにも關わらず、父親は音樂教育の觀點から息子にドイツ語を教えたと云います。斯くしてフランスのラテン系文化とドイツのゲルマン系文化を幼少時由り身に着けた事が、ドイツ音樂とフランス音樂と謂う一般には相反すると考えられているジャンルの音樂を自在に演奏し得る事に繫がっていると看做されていて、ドイツ音樂も得意とするフランス語圏出身の指揮者としては、ピエール・モントゥーと雙璧的存在と評價されています(同樣に獨佛音樂を共に得意としたミュンシュは家系、出生當時國籍共にドイツのアルザス人でした)。

  1932年からフランスの歌劇場でも活動を始め、爾後キャリアを重ね、1944年にパリ・オペラ座の指揮者となり、1949年にはミュンシュの後任としてパリ音樂院管弦樂團の首席指揮者に就任します。そして爾後1967年にクリュイタンスが逝去する迄、此のコンビは黃金時代を築く事に為ります。それと並行してフランス國立放送管弦樂團、ベルギー國立管弦樂團の指揮も兼任しました。

  1967年6月3日、パリで胃癌の為急死しています。享年62歳でした。

 

  レパートリーとしては、フランス系の指揮者として當然の事ながら、フランスの作曲家の作品に熟練し、ラヴェルの管弦樂曲集、ビゼーの《アルルの女》組曲、ベルリオーズの『幻想交響曲』や序曲《羅馬の謝肉祭》、フォーレのレクイエム等は、現在でも不朽の名盤として語り繼がれています。

  又、教育環境も有って、バイロイト音樂祭へ出演した事からも分かるように、ドイツ音楽にも巧みで、とりわけベートーヴェンの演奏が知られており、BPOの初めてのベートーヴェン交響曲全集の録音は、當時の常任指揮者であったカラヤンでは無くして、クリュイタンスが行っています。

 

  上述の通り、此の《アルルの女》第2組曲は名盤として知られている録音で、聽き手は宛もプロヴァンス地方に身を置いて居るかの樣な優雅で美しい音樂に浸る事が出來ます。比較的ゆったりとしたテンポを採っているのは、恐らくパリ音樂院管弦樂團の音色を活かす為のテンポ設定なのではと思える程に、各樂器の良さが耳に飛び込んで來る感じです。メヌエットに於ける透き通る樣なフルートと土臭いサクソフォーンの溶け合わず絡み合う響きは見事というより外有りません。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

     André Cluytens (Dirigent)

 Orchestre de la Société des Concerts du Conservatoire

 

(1964.01.13,15&21)

 

 

(1964.05.10 Live-Aufnahme 東京文化会館)