ミュンシュのビゼー    《カルメン》

 

Georges Bizet

《Carmen》Suite

 

 

 

  今日採り上げるのは、ビゼーの《カルメン》組曲です。

 

  17世紀のフランスでは、リュートやクラヴサン等で、同じ調の幾つかの舞曲を組にして演奏することが行われていて、アルマンド、クーラント、サラバンドを此のの順で演奏するのが基本で、後にジークが加わると謂う形が採られていました。

  此れを組曲として定式化したのがドイツの作曲家ヨハン・ヤーコブ。フローベルガーでした。

  惟、此のバロック時代の組曲は、同時代の終焉に伴い、次第に姿を消して行ってしまいます。そして、古典派時代を經てロマン派時代に至ると、「組曲」とは主に舞台音樂(劇附随音樂、オペラ、バレエ音樂等)の中から、主要曲を拔粹し配列して演奏會で演奏し得る樣にした管弦樂曲が組曲と呼ばれる樣に為りました。

  尚、オペラからの組曲に於いては、聲樂パートが器樂に置き換えられる事が多い樣です。又、舞曲に限らず、樣々な樂曲の組み合わせで、初めから組曲として作曲すると謂った事が行われてもいました。

  そして更に19世紀後半以後、バロック時代の組曲の復興運動が行われ、普佛戰爭以後にドイツと對立したフランスでは、ドイツの交響樂に反撥し、其れに代ってフランスの榮光の輝いたルイ14世時代を模範としてフランスの器樂組曲を復興させ、ヨーロッパの他の國にも此の運動は傳わって行きました。

 

  《カルメン》組曲は、ビゼーの代表作であるオペラ《カルメン》を原曲に、ギーとホフマンに由り編曲(第1組曲、第2組曲)されたものが有名で、内容は以下の通りと為っています:  

  第1組曲
前奏曲と間奏曲を中心に構成。
  • 前奏曲〜アラゴネーズ(第1幕への前奏曲の後半部分、第4幕への間奏曲)
  • 間奏曲(第3幕への間奏曲)
  • セギディーリャ
  • アルカラの龍騎兵(第2幕への間奏曲)
  • 終曲(闘牛士)(第1幕への前奏曲の前半部分)
第2組曲
アリアや合唱入りの曲をオーケストラ用に編曲した6曲で構成。
  • 密輸入者の行進
  • ハバネラ
  • 夜想曲(ミカエラのアリア)
  • 闘牛士の歌
  • 衛兵の交代(子どもたちの合唱)
  • ジプシーの踊り

  但し、ビゼー自らの手に由るものでない事も有り、指揮者に由っては演奏順を變えたり、第1・第2組曲を一つの組曲として演奏したり、2つの組曲から適宜選曲してオリジナルの組曲を編んだりする事も自由に行われている樣で、入手し易いCDの中で上述の曲順通りに演奏している者は、シェルル・デュドワ指揮・モントリオール交響樂團のみの樣です。

  

  又、舊蘇聯の作曲家シチェドリンに由る編曲(バレエ音樂として使用)も存在しています。

 

  今日紹介させて頂くのは、シャルル・ミュンシュの指揮するニュー・フィルハーモニア管弦樂團に由り1967年に行われたセッション録音です。

 

  此の演奏は、長くBSOの常任を務めたフランスの名指揮者ミュンシュが最晩年に殘した快演と云うに相應しいもので、華やかな色彩感溢れる演奏は、彼の殘した數多くの録音の中でも最も優れた者の一つに擧げられています。

  悠揚迫らぬテンポで進行する此の演奏は、死の前前年の録音で、如何にもフランスの指揮者らしい色彩感と明快さに溢れ、情熱と柔和さの巧みなブレンドが感動を呼びます。

  ミュンシュは元来ライヴの人で、リハーサルもそこそこに一發勝負に掛けるというのが常であったそうで、此のスタジオ録音も一期一会の組み合わせの凄まじい音樂の迸りが感ぜられる緊張感に滿ちたドラマティックな演奏と成っています。

  惟、慾を云うと、フランスのオケの樣な洗練された音でないのが玉に瑕で、而も此れが殘されている唯一の録音であるのが殘念でなりません。

 

  尚、此のミュンシュ盤の樂曲構成は以下の通りです:

 

  01: カルメン組曲/第1幕への前奏曲
  02: アラゴネーズ
  03: 間奏曲
  04: アルカラの龍騎兵
  05: ハバネラ
  06: 衛兵の交代
  07: ジプシーの踊り

 

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Charles Munch (Dirigent)

    Neues Philharmonia-Orchester

 

 

 

 

 

 

 

(1967)