ランドフスカのヘンデル Nr.7 HWV 432

 

Georg Friedrich Händel

Suites de pièces pour le clavecin, premier volume

Suite Nr.7 g-moll HWV 432

 

 

 

  今日採り上げるのは、ヘンデルのチェンバロ組曲 第7番 ト短調 HWV 432です。

 

  此の曲は、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルに由って1710年代に作曲された通稱《8つの大組曲集》とも呼ばれている全8曲から為るクラヴサン(チェンバロ)獨奏の為の組曲集《クラヴサン組曲第1集》の中の7番目の曲です。 

 

  HWV439の改訂稿である3/2拍子のサラバンドに、フローベルガーの影響が認められ、樣式的には遲くとも1711年まで遡れる事、ロジェ版の改訂稿であるオーヴァーチュア(序曲)が、1707年初演のカンタータ《忠實な心》序曲の編曲である事等から、本作品の作曲も初のローマ滯在時の可能性があるとされています。

  アンダンテは樣式化されたアルマンドで、アレグロ、サラバンドと共に出版用の改訂稿であるそうです。2聲體のアルマンドは、附點を含まないリズム、大部分上聲に與えられた主旋律聲部、模倣や動機操作の少なさ等から、イタリア樣式への傾倒が強いと云われます。事實上は舞曲樂章であり、2聲の模倣が各部の冒頭にしかないアレグロも同樣に、イタリアのコッレンテの特徴が色濃いと云えましょう。

  サラバンドは4小節の長さの樂節から成り、形式は簡潔で、最後の8小節は、直前の8小節の前半4小節を若干變更した反復と為っています。

  ジーグは全體で19小節と短く、大方は最低聲が和聲低音、最上声が主旋律となる明瞭な書法で、聲部の密な絡み合いは見られず、和聲進行にも複雜さは見られません。

  パッサカリアは出版以前に流布していた寫譜ではシャコンヌとされていた樣ですが、舞曲が3/4拍子を基本拍子とする事が多いのに對して本樂章は4/4を採っています。小節後半の和聲と5度の關係を取りながら、小節冒頭の低音が一小節ずつ2度下行し、パッサカリアのバス典型である4度の下行音階を形作っています。15回の變奏の中、第2、3變奏、第5、6變奏、第8、9變奏、第13、14變奏は夫々對となり、上聲と低聲の間で聲部が交替します。

 

    第7番長調の構成は以下の通りです:

  1. 序曲4⁄4拍子 - カンタータ『クローリとティルシとフィレーノ』HWV 96の序曲に由来。
  2. Andante 4⁄4拍子
  3. Allegro 3⁄8拍子
  4. Sarabande(サラバンド) 3⁄2拍子
  5. Gigue(ジーグ) 12⁄8拍子
  6. Passacaglia(パッサカリア) 4⁄4拍子

  全8曲中、此の曲にのみ1705年頃のハンブルク時代の樂章が含まれていると云います。

 

  今日紹介させて頂くのは、ワンダ・ランドフスカのチェンバロ演奏に由り1935年2月1日に行われたセッション録音です。

  

  古樂器の演奏が主流と成っている今に在っては、嘗てランドフスカが用いていたモダン樂器は「モンスター・チェンバロ」と云われる程評判が惡くなってしまっているのは確かでありますが、其の全體に大膽な緩急や強弱、装飾音を施した壯麗な演奏は、寧ろ派手好みであったと云われているヘンデルの音樂には打って附けであると云いっても過言では無く、彼女の殘した録音中に在っては、クープランやラモーと並んで現代に於いても價値の減じる事は無いと云い得ましょう。

 

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

  

  Wanda Landowska (Cembalo)

 

(1935.02.01)