グールドのヘンデル         Nr.4 HWV 429

 

Georg Friedrich Händel

Suites de pièces pour le clavecin, premier volume

Suite Nr.4 e-moll HWV 429

 

 

 

  今日採り上げるのは、ヘンデルのチェンバロ組曲第4番ホ短調HWV 429です。

 

 

  此の曲は、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルに由って1710年代に作曲された通稱《8つの大組曲集》とも呼ばれている全8曲から為るクラヴサン(チェンバロ)獨奏の為の組曲集《クラヴサン組曲第1集》の中の4番目の曲です。

 

  1717年以降の一時期、ロンドンのヘイマーケット劇場が閉鎖されてオペラが上演出來なくなったヘンデルは、ジェームス・ブリッジスに招かれ、現在のロンドンのハーロウ區に在るキャノンズの邸宅に住んで作曲活動を行なっていました。『クラヴサン組曲第1集』には主に此のキャノンズ時代に書かれた曲が收録されています。

  1720年前後にアムステルダムの出版者であるジャンヌ・ロジェ(Jeanne Roger, 1701-1722)名義でヘンデルのハープシコード作品集の海賊版が出版され、其れを知ったヘンデルは、對抗手段としてロンドンのクルーアー(John Cluer)から正規のクラヴサン組曲集を出版したのですが、此れが即ち第1集為る者です。當時の著作権は14年間有効というものだったそうですが、此の曲集はヘンデルが著作権を行使した最初の作品であったと云います。

  題には「組曲」と有りますが、傳統的な組曲とは無關係なイタリア式のソナタ樂章や教會ソナタ形式の曲等も含まれています。

 

  第4番ホ短調の構成は以下の通りです: 

  1. アレグロ(Allegro) 4⁄4拍子 - フーガ(Fuga)。
  2. アルマンド(Allemande) 4⁄4拍子
  3. クーラント(Courante) 3⁄4拍子
  4. サラバンド (Sarabande)3⁄4拍子
  5. ジーグ(Gigue) 12⁄8拍子

 

  第1曲のアレグロは、プレリュードが無く、行き成り長大なフーガで始まると謂っ

   た重々しくも有り、亦た格好良く走り去っていく樣な極めてクールな曲です。

 

  第2曲のアルマンドは、纖細且つ優雅な舞曲です。

  第3曲のクーラントは、洒落たフランス風の響きのする洗練された曲で、何處か南

   歐風のエキゾチックな感じもします。

  第4曲のサラバンドは、バフ・ストップでゆっくりと奏でられるものの、メランコ

   リックな嘆きの感じられるしみじみとした曲です。

  第5曲のジーグは、フーガ風に始まり、ツンと澄ました感じで進行し、さっと終わ

   る短い終曲です。

 

  因みに、此の曲のフーガはマヌエル・ポンセに由り《ヘンデルの主題に由る前奏曲とフーガ ニ短調』(1906年)の素材として用いられています。

 

  今日紹介させて頂くのは、グレン・グールドのチェンバロ演奏に由り1972年に行われたセッション録音です。

 

  ヘンデルの組曲をバッハの樣にピアノではなく、何故チェンバロで録音したのかに就いて、グールドは唯「面白そうだったから」としか語ってはいないものの、此の演奏は彼がチェンバロに於いても第1級の名手であった事を示していて、チェンバロならではの多彩な音色やアーティキュレーションを驅使しつつ、ヘンデルの音樂的特徴の核心を見事に抉り出しているのは流石としか云い樣が有りません。

  正當な演奏ではないと云われれは其れ迄なのですが、贊否兩論が有るのを承知の上で、敢えて云わせて頂くと、素晴らしく而も充存分に樂しめる演奏である事に相違有りません。

   ヘンデルの組曲はバッハほど形式性が強くないのでグールドらしい求心力にはやや欠ける趣が有りはするものの、其れは曲の個性の違いと云って然るべきでありましょう。

 

  尚、グールド自らがピアノを用いて演奏している者も有るので、茲に併せて紹介させて頂く次第です。

 

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Glenn Gould (Cempalo) & (Klavier)

 

(1972.04.30, 05.01&28)

(Live)