レーマンのヘンデル    《王宮の花火の音樂》

 

Georg Friedrich Händel

Feuerwerksmusik HWV 351

 

 

 

  今日採り上げるのは、ヘンデルの《王宮の花火の音樂》HWV 351です。

 

  此の曲は、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルが作曲した組曲で、1748年にオーストリア繼承戰爭終結の為に開かれたアーヘンの和議を祝う祝典の為の花火大會の音樂として作曲された者です。1749年4月21日にロンドンのヴォクソール・ガーデンズで公開リハーサルが行われたのですが、未曾有の1万2000人の歡客を集めたが為に、ロンドン橋で交通澁滯を引き起こしてしまったと云います。此の時は軍樂隊の編成で、序曲はオーボエ24、ファゴット12、コントラファゴット1、ホルン9、トランペット9、ティンパニ3對という構成だったそうです。

  本番は1週間後の4月28日にロンドンのグリーン・パークで催され、其の祝典は盛大なものだったそうですが、花火が上手く點火せず、更にパビリオンの一つが燒け落ちるなどの失敗に終わったと云います。ヘンデルは其の1か月後の5月27日の孤兒養育院での慈善演奏會でも『王宮の花火の音楽』を上演し、其の際は軍樂隊ではなくして、ヘンデルの意向通りに管弦樂版で上演された樣です。

 

  曲は以下の通りの5つの樂曲で構成されています:

 

  1. 序曲 (Ouverture, ニ長調)

      2. ブレー (Bourée, ニ短調)

      3. 平和 (La paix, ニ長調)

      4. 歡喜 (La réjouissance, ニ長調)

      5. メヌエット (Minuet, ニ短調) - メヌエットII(ニ長調)

 

  序曲は祝典曲に相應しく華麗で、後に舞曲(輕快な「ブレー」とゆったりした「メヌエット I&II」)が配置されていて、變化が樂しめます。自作の再使用も見られますが、此れは當時は普通に行われていた事であるそうです。

  序曲の旋律は、1737年に初演されたが失敗に終わったオペラ『ベレニーチェ』の第3幕の前奏曲(シンフォニア)を再利用した者です。

 

  初演では、當時のイギリス國王ジョージ2世の意向に由り、勇壯な響きを演出せんが為に管弦樂と打樂器のみが使われたのですが、ヘンデル自らは弦樂器を用いる事を強く主張したので、現在では其の版も廣く演奏されています。

  

  因みに、1962年發行のBärenreiterのスコアや、1886年發行のDeutsche Händelgesellschaftのスコアでは、下記の樂器群が指定されている。

  • 第1オーボエ 12本 (※第1ヴァイオリン)
  • 第2オーボエ 8本 (※第2ヴァイオリン)
  • 第3オーボエ 4本 (※ヴィオラ)
  • 第1ホルン 3本
  • 第2ホルン 3本
  • 第3ホルン 3本
  • 第1トランペット 3本
  • 第2トランペット 3本
  • 第3トランペット 3本
  • ティンパニ 3セット
  • 第1ファゴット 8本 (※チェロとコントラバスのトゥッティ)
  • 第2ファゴット 4本 (※追加でコントラファゴット1本)

  

   今日紹介させて頂くのは、フリッツ・レーマンの指揮するベルリン・フィルハーモニー管弦樂團に由り1951(1952?)年に行われたセッション録音です。

 

  フリッツ・レーマンは有名なソプラノ歌手ロッテ・レーマンの弟で、51歳と謂う若さで亡くなり、而もミュンヒェンでバッハの《マタイ受難曲》の演奏中に急逝するという衝撃的な最期を遂げたそうです。

  其のレーマンですが、バッハやヘンデルを得意としていた樣で、ヘンデル音樂祭での指揮者を務めたり、亦た自ら合唱團を設立してバッハの聲樂曲の録音を行ったりもしていた程です。

  バロック樣式の演奏に耳が馴染んでしまうと、却って現代オーケストラでの演奏が逆に物足りなく感じることが偶に有ります。其れは現代オーケストラの編成が大きいが為に、全體のテンポを遲くしないと響きが悪くなってしまうと謂った傾向が基本的に有るからなのだそうですが、だからと云ってテンポを遲くすると今度は樂曲全體が間延びしてしまい、バロック音楽の本質的な良さである活き活きした演奏から遠ざかってしまいかねません。惟、此のレーマンに由る演奏は、兎に角BPOの奏でる音が素晴らしく豪華で、且つ大編成のオーケストラでありながら、全體の統率が完全に取れた見事な演奏と成っています。レーマンの能動的で積極性に溢れた指揮振りも樂曲の間延び感を防いでいる事が特長の一つとして擧げられましょう。
  演奏全體に壯麗感の漂う此の《王宮の花火の音樂》は、正に祝典音樂に相應しくゴージャスな感じがし、亦た其れでい乍ら、レーマンがヨーロッパの音樂の傳統をしっかりと蹈まえた上で、説得力の強い樂曲表現に徹しているが故に、聽き手に對し現在でも猶極めて強い印象を與え續けてくれている優れた演奏であるのは確かでありましょう。
  現代では、斯うしたヘンデルの演奏は最早殆ど聽く事は出來得ません。確かに、ヘンデルの作曲当時の樣式とは異なるにしても、レーマンの録音は全體が大いに雄大且つ豪華であり乍ら、其の一方で此の音樂に求められる高潔さや清潔さを失ってはおらず、古樂器演奏に慣れた耳からすると、大袈裟に感じる部分も有るには有るでしょうが、端正にして華やかな飽きの來ない演奏である事は確かであると云えましょう。

  

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Fritz Lehmann (Dirigent)

    Berliner Philharmonisches Orchester

 

(1951)(1952.11?)

 

  ※上述の通り、ジョージ2世は管樂器と打樂器のみでの演奏を望んだそうで、よって茲にヴェンツィンガー指揮に由る弦樂器無しの演奏も紹介させて頂く事と致します。

 

  August Wenzinger(Dirigent)

    Schola Cantorum Basiliiensis

 

 

 

 

(1962.03)