ヴェンツィンガーのテレマン《ターフェルムジーク》I-I

 

Georg Philipp Telemann

Ouvertüre e-moll Tafelmusik

(Musique de Table Production )

 I-I  TWV 55:e1

 

 

  今日採り上げるのは、テレマンの序曲(組曲)ホ短調《ターフェルムジーク》第1集第1曲 TWV 55:e1です。

 

  ターフェルムジークは、16世紀中葉以降に、祝宴や饗宴で演奏されるのを目的とした音樂形式の事を指し、又其の目的で作られた曲集の題名にも使われるもので、食卓の音樂とも呼ばれ、重要な作曲家としては、曲集《音樂の饗宴》(1617年)で高い人氣を得たヨハン・シャイン等が擧げられます。

  バロック期の作曲家であるテレマンの最も有名な曲集の題名も《ターフェルムジーク》(1733年)で、此の曲集は多彩な曲目と數多くの樂器を巧みに操る作曲技法が鮮やかに示されている點に於いて、大バッハの《ブランデンブルク協奏曲集》と比肩されるものでもありました。

  ターフェルムジークには器樂、聲樂、及び其の兩方の為の曲が有った樣ですが、やはり他の目的の為の音樂に較べると、屡幾らか輕いのが特徴で、18世紀には、ターフェルムジークの役割はディヴェルティメントに取って代わられ、其の重要度は急速に低下したものの、1809年にカール・フリードリヒ・ツェルターに由って創始されたリーダーターフェルと呼ばれる聲樂ジャンルの中で復權し、一部が再興され、此のジャンル名の由来となったそうで、「リーダーターフェル」と名乗る各地の男聲合唱團に由り、20世紀半ばまで演奏活動が續けられたと云います。

  テレマンの《ターフェルムジーク》は1733年にテレマン自らの手で出版されますが、初版のタイトルはフランス語で《Musique de Table partageé en Trois Productions》(3つの曲集から為る食卓の音樂)というもので、《ターフェルムジーク》と謂うのは其のドイツ語での呼び名です。

  今も昔も祝宴にBGMは欠かせません。音樂はムードを盛り上げ、場を和ませ、會話も彈み、宴を一層愉しい者にしてくれます。王侯貴族達は祝宴を開く度に、客を持成す為〝何か音樂を流さなくては〟と謂う事で、斯うした曲集を買い求めてはお抱えの合奏團に演奏させたのでありましょう。正に實用の為の音樂で、需要がかなり有った事が窺えます。

  あのモーツァルトも、ザルツブルク大司教に仕えていた青年時代、其の食卓用に6曲から為る管樂器に由るディヴェルティメントを書いていて、其れ等はオーボエ2、ホルン2、ファゴット2と謂った小編成で、とても輕く、會話を妨げない樣、BGMに徹したかの樣な音樂です。

  惟、テレマンの《ターフェルムジーク》はと云うと、其れ程に輕い内容でも無い樣にも思えます。

  3つの曲集から為っているのですが、3つ共全く同じ構成を採っていて、其處にはジャンルの異なった曲が、コンサートのプログラムの如く、以下の樣に整然と並んでいます:

 

  第1曲 フランス風序曲

  第2曲 四重奏曲

  第3曲 協奏曲

  第4曲 トリオ・ソナタ

  第5曲 ソロ・ソナタ

  第6曲 終曲

 

  正にバロック音樂の代表的なジャンルのサンプル集の樣相を呈していて、登場する樂器も多彩であり、3つの曲集で揃えてあるのはジャンルのみで、曲の性格や音樂性に關しては二つとして同じ曲は有りません。

 

  改めて、今日採り上げるのは此の《ターフェルムジーク》第1集第1曲のフランス風序曲(管弦樂組曲)という譯で、樂曲の構成は以下の通りと為ってます:

 

  第1樂章 序曲(Ouverture)

  第2樂章 歡喜(Réjouissance)  

  第3樂章 ロンドー(Rondeau)

  第4樂章 ルール(Loure)

  第5樂章 パスピエ(Passepied)

  第6樂章 エール(Air)

  第7樂章 ジーグ(Gigue)

 

 

  今日紹介させて頂くのも、アウグスト・ヴェンツィンガーの指揮するバーゼル・スコラ・カントルム合奏團に由り1964~1965年に掛けて行われたセッション録音です。

 

  古樂器の演奏スタイルが既に確立を見ている今日の演奏からすると、穩やかな運びで、何度聽いても疲れない演奏であると云い得るのではないでしょうか。

 

  

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  August Wenzinger (Dirigent)

    Konzergruppe der Schola Cantorum Basiliensis

 

 

 

 

 

 

 

(1964-1965)