レオンハルトのフローベルガー 組曲 Nr.1&Nr.20

 

Johann Jakob Froberger

Suite Nr.1 a-moll (Partita) FbWV.601

Suite Nr.20 D-Dur FbWV.620

 

 

 

  初めに、組曲に就いてですが、組曲とは、幾つかの樂曲を連續して演奏する樣に組み合わせ並べたものを指します。

  

  ルネサンス期には、ゆっくりした舞曲と活潑な舞曲の組み合わせ、即ちパヴァーヌとガイヤルド等を組み合わせる事が行われていて、其の際、樣式を統一する為に旋律素材を共有する事も有ったと云います。

  バロック時代ですが、17世紀のフランスでは、リュートやクラヴサン等で、同じc調の幾つかの舞曲を組にして演奏することが行われていて、アルマンド、クーラント、サラバンドを、此の順で演奏するのが基本で、後にジークが加わります。此れを組曲として定式化したのが、ドイツの作曲家ヨハン・ヤーコブ・フローベルガーであると看做されている樣ですが、但しフローベルガーの自筆譜では一般にジーグが第2曲に置かれていました。其れが、後の作曲家の組曲に於いては、ジーグは終曲に置く事が一般的と成っていた樣です。

  ロマン派以降の音樂では、「組曲」とは主に舞臺音樂(劇附随音樂、オペラ、バレエ音樂等)の中から、主要曲を拔き出し、其れ等を配列して演奏會で演奏し得る樣にした管弦樂曲を組曲と呼ぶように成ります。尚、オペラからの組曲では、聲樂パートは器樂に置き換えることが多い樣ですが、舞曲に限らず樣々な樂曲の組み合わせで、初めから組曲として作曲する事も、管弦樂に限らず行われています。

  19世紀後半以後、バロックの組曲の復興運動が行われ、普佛戰爭以後ドイツと對立したフランスに於いては、ドイツの交響樂に反撥し、其れ替わってフランスの榮光の輝いたルイ14世時代を模範としてフランスの器楽組曲を復興させ、ヨーロッパの他の國にも此の運動は傳わった樣です。

  

 

  ヨハン・ヤーコブ・フローベルガーは、1616年にシュトゥットガルトで生まれたドイツの初期バロック音樂の作曲家で、主に鍵盤樂器の為の作品を作曲し、作曲家であると同時にチェンバロとオルガンの名手でもあり、フレスコバルディ門下で、ヘンデルや大バッハに先行する重要な鍵盤曲作曲家として多大な影響を與えたとされています。

 

  フローベルガーは又、クラヴィーア組曲の最初期の作曲者で、時にドイツ・クラヴィーア組曲の創始者とされることも有り、其れは彼の作品に由って、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジークの4つの舞曲が、組曲には欠かせないものとして確立されたからである樣です。一方で、J.S.バッハをはじめとする後のバロック時代の作曲家のクラヴィーア組曲に於いては、ジーグを終曲におくことが普通ですが、フローベルガーの自筆譜ではジーグはクーラントの前後に置かれていることが多い樣です。

  死後の1693年に出版された彼の曲集では、出版社によってジーグが組曲の最後になるように並べ替えられていて、時代の経過による慣習の變化を示唆していると共に、斯う謂った組曲の形式は、フランスのリュート音樂の影響が色濃いとされています。そして、彼の影響を受けた作曲家としてはルイ・クープラン、ゲオルク・ビョエーム、ブルクスフーデやパッフェルベルを擧げる事が出來ると云います。

 

  今日採り上げるのは、フローベルガーの組曲第1番イ短調と第20番ニ長調です。

 

  組曲第1番イ短調FbWV.601は、フローベルガーが1649年に作曲完成させた曲で、1.アルマンド、2.ジーク、3.サラバンドの3曲構成と為っています。

 

  組曲第20番ニ長調FbWV.620は、フローベルガーが1697年頃に作曲完成させたもので、此方は1.瞑想(アルマンド)、2.ジーク、3.クーラント、4.サラバンドの4曲構成です。

 

  今日紹介させて頂くのは、グスタフ・レオンハルトのチェンバロに由り1962年に行われたセッション録音です。

 

  グスタフ・レオンハルトは、1928年にオランダ北部のス・フラーフェラントでプロテスタントの家庭に生まれたオランダの鍵盤樂器奏者・指揮者・教育者・音樂學者で、ピリオド樂器に由る古樂演奏運動のパイオニアにして中心人物でした。各種の鍵盤樂器に由る録音を殘していますが、就中チェンバロ奏者・オルガン奏者として高名です。

  バッハのみならず、フランス・クラヴサン樂派やフレスコバルディの作品も録音しているレオンハルトであるが故に、此のフローベルガーの組曲は、音樂史のスパンで捉えた音樂と謂う意味においても、一聽の價値有る演奏であると云えるのではないでしょうか。

  因みに、クラヴサンというのはフランス語で、弦をプレクトラムで彈いて發音する鍵盤樂器を指し、英語ではハープシコード、獨語ではチェンバロと呼ばれていて、ルネサンス音樂やバロック音樂で廣く用いられたのですが、18世紀後半からピアノの興隆と共に徐々に音樂演奏の場から姿を消してしまいます。併し、20世紀に古樂の歷史考証的な演奏の為に復興され、現在音樂やポピュラー音樂でも用いられる樣に成っています。上述の此の樂器の復興に一役買ったのがワンダ・ランドフスカ女史でした。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Gustav Leonhardt (Cembalo)  

 

    組曲第1番イ短調/Suite Nr.1 a-moll FbWV.601

 

  組曲第20番ニ長調/Suite Nr.20 D-Dur FbWV.620

(1962.04.11)