クレンペラーのファリャ 《スペインの庭の夜》
MANUEL DE FALLA
《Noches en los jardines de España》
Sinfonische Impressionen für Klavier und Orchester
"Nächte in spanischen Gärten"
今日採り上げるのは、ファリャの交響的印象《スペインの庭の夜》です。
此の曲は、スペインの作曲家マヌエル・デ・ファリャが1915年に作曲完成させた獨奏ピアノと管弦樂の為の作品で、其の樣明記されてはいないものの、演奏形態としてはピアノ協奏曲に準じ、又ジャンルとしては交響詩に分類される事も有ります。
ファリャがパリ滯在中の1909年に、親交があった同國人のリカルド・ビニェスという名のピアニストに獻呈する為のピアノ獨奏曲《3つの夜想曲》として作曲が始められたのですが、ビニェスの示唆に由り、獨奏ピアノと管弦楽のための樂曲に書き換えられました。完成したのはスペイン帰国後の1915年で、作品はビニェスに獻呈されています。
パリ滯在中に作曲が進められた事も有っての故か、ファリャの印象主義的な作風が示された作品と成っていて、氣怠さと躍動感を併せ持つ曲想は、ドビュッシーの《夜想曲》やラヴェルの《スペイン狂詩曲》の影響を窺わせる者です。
初演は、1916年4月9日にマドリード王立劇場に於いて、エンリケ・フェルナンデス・アルボスの指揮するマドリード交響樂團とホセ・クビレスのピアノ獨奏に由って行われています。
ファリャは本作を「交響的印象」と呼んでおり、ピアノ・パートは洗練されて華麗で雄辯ではあるものの、交響詩のジャンルでもある為か、滅多に他パートを壓倒する事は無く、管弦樂は官能的な筆致で綴られています。
樂曲は以下の3樂章構成と為っています:
ヘネラリーフェにて(En el Generalife)
アランブラのカリフのハーレムの夏の離宮。
ジャスミンの花香る夜のヘネラリーフェの花園。
- 遥かなる踊り(Danza lejana)
場所は何處ともつかないが、遠くで異国風の踊りが響く庭園。
- コルドバの山の庭にて(En los jardines de la Sierra de Córdoba)
コルドバ山地の庭園。聖體祭の日にジプシー達が集って歌い踊る。
今日紹介させて頂くのは、オットー・クレンペラーの指揮するアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦樂團とウィレム・アンドリーセンのピアノ獨奏に由り1951年3月29日に行われた演奏會に於けるライヴ録音です。
ウィレム・アンドリーセンは、1887年にハールレムで生まれたオランダのピアニスト兼作曲家で、同じくオランダの作曲家兼ピアニストであるルイ・アンドリーセンの叔父に當たります。
ピアニストとしては、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューマンを得意とする其の一方で、ドビュッシー、ラヴェル、バルトークのピアノ曲の演奏も手掛けていた樣です。
《スペインの庭の夜》は、其の名の通り、スペインのピアニストであるラローチャや同じラテン系のアルヘリッチの演奏といった所謂御当地物が名演とされているのは確かなのですが、單なるスペイン風を超越した水準の素晴らしい演奏も存在していて、とりわけ一般に巨匠と云われているルービンシュタインやカサドシュが其の好例で、外にもハスキルとマルケヴィッチの共演も然りで、其れ等の何れもが作曲者を除けば、「本場」のスペイン人は一人も居ないという譯です。斯うした事實を拔きにして、スペイン人が遣ればスペイン風だと無責任に結論附けるのは餘りに短絡的過ぎるのではないかと思われます。
其の實、このクレンペラーとアンドリーセンの共演は、確かにスペイン風と呼べるものではないのかも知れません。かと云って、音樂其れ自體にスペインの血は流れている譯で、敢えて其れを強調する必要も無いのではないかと思えます。上述の通り、そう謂った者を度外視して尚且つ聽き手に何かを訴え掛けてくる演奏こそ本物の音樂なのである氣がしてなりません。此のクレンペラーの演奏は、其の意味に於いて實に味わい深いものであり、それにオケも優れたアンサンブルで獨特の何とも云えない雰圍氣を釀し出してくれています。
演奏メンバーは以下の通りです:
Otto Klemperer (Dirigent)
Willem Andriessen (Klavier)
Concertgebouw-Orkest Amsterdam
(1951.03.29 Live-Aufnahme)