ミトロプーロスのサン=サーンス《ヘラクレスの青年時代》

 

Camille Saint-Saëns

La jeunesse d'Hercule

Sinfonische Dichtung "Die Jugend des Herkules" Op.50

 

 

  今日採り上げるのは、サン=サーンスの交響詩《ヘラクレスの青年時代》作品50です。

 

  此の曲は、カミーユ・サン=サーンスが作曲した全4作の交響詩中の最後の作品と為るものです。

 

  詳細な作曲の動機に就いては未だ審らかにされてはいないのですが、古代ギリシャ神話に於けるヘラクレスをテーマとして1877年に作曲が為され、1月という極短期間で完成されてはいるのですが、サン=サーンスの交響詩の中では特に大きな規模を有するものと成っています。

  初演は同年1月28日に、シャトレ座に於いてエドゥアール・コロンヌの指揮に由り行われています。

  サン=サーンスは出版社に宛てた書簡の中で、其れ迄に作曲した交響詩に就いて論評していて、《死の舞蹈》は「死の恐怖とアイロニー」、《オンファールの絲車》は「誘惑」、《ファエトン》は「誇り」、《ヘラクレスの青年時代》は「英雄主義と性的な快樂との煩惱」が表現されていると自ら評しています。又、當作品はオペラ《サムソンとデリラ》と並行する形で作曲が為されているが故に、兩作品には共通性が見られる樣です。

  尚、サン=サーンス自らの手で2臺のピアノ用にも編曲されています。

 

  樂曲は、變ホ長調の4/4拍子で、大きく3部に分かれていて、ワーグナーの《タンホイザー》序曲等と類似した構成と成っています。

  主題を預示する靜かな序奏で始まり、主部に入ると、ヘラクレスの英雄的な性格を表わす主要主題が提示されます。

  主題が一通り提示された後、第2部に入り、ニンフに由る誘惑が描かれ、續いて熱狂的なバッカナールへと發展して行きます。

  盛り上がりが頂點に達した所で、ヘラクレスは誘惑を力強く拒絶します。其處で第1部の主題が再現されて第3部が始まり、フガートも交え乍ら主題が展開されて行き、英雄としての自覺を取り戻したヘラクレスが試練と戰いの中で成長して行く姿が描かれます。

  コーダはテンポを落としてマエストーソと成り、壯麗なエンディングを迎えます。

 

  今日紹介させて頂くのは、ディミトリ・ミトロプーロスの指揮するニューヨーク・フィルハーモニー交響樂團に由り1956年1月9日に行われたセッション録音です。

 

  ミトロプーロスという指揮者は、巨視的に音樂を捉え乍らも細かい部分にも感情を込めて演奏すると謂う相反する概念を見事に演奏で示すのを物の見事に成し遂げる事の出來る音樂家であると評價されています。此の曲に關しても然りで、ニューヨーク・フィルの弦の重厚さを活かしつつもサン=サーンスの色彩の豊かさを存分に描き出しています。それに、ドラマティック性に於いても充分で、特に、高弦のシャープな切れ味はミトロプーロスならではの魅力と云えるのではないでしょうか。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

  

  Dimitri Mitropoulos (Dirigent)

    New-Yorker Philharmonisches Symphonieorchester

 

(1956.01.09)