ミュンシュのサン=サーンス《死の舞蹈》Op.40

 

Camille Saint-Saëns

《Danse macabre》

Sinfonische Dichtung "Totentanz" Op.40

 

 

  今日採り上げるのは、サン=サーンスの交響詩《死の舞蹈》作品40です。

 

  此の曲は、フランスの作曲家カミーユ・サン=サーンスが作曲した交響詩で、彼の書いた4つの交響詩の中で最も有名な作品です。

 

  フランスの詩人アンリ・カザリスの奇怪で幻想的な詩に靈感を得たサン=サーンスは、1872年に先ずは歌曲として作曲し、1874年に管弦樂曲として纏めています。午前0時の時計の音と共に骸骨が現れて不氣味なダンスを始め、次第に激しさを増して行くものの、夜明けを告げる雄鷄の聲が響き渡るや否や、墓に逃げ歸り、邊りが再び靜寂に包まれる迄が描寫的に描かれています。

 

  初演は1875年1月24日にパリのシャトレ座に於いて、エドゥアール・コロンヌの指揮するコロンヌ管弦樂團に由って行われ、友人でピアニストのモンティニ・ルモーリ夫人に獻呈されています。

 

  併し乍ら、初演は失敗に終わり、就中シロフォンに由る骨のかち合う表現等が作曲者の惡趣味の極みであるとの非難を浴びたりしたものの、繰り返し演奏される中に現在の樣な好評を勝ち得て行ったと云います。

 

  スコアの冒頭には、カザリスの詩からの數行が引用されていて、其の引用部分の日本語譯は以下の通りです:

 

    ジグ、ジグ、ジグ、墓石の上
    踵で拍子を取りながら
    真夜中に死神が奏でるは舞蹈の調べ
    ジグ、ジグ、ジグ、ヴァイオリンで

    冬の風は吹き荒び、夜は深い
    菩提樹から漏れる呻き聲
    青白い骸骨が闇から舞い出で
    屍衣を纏いて跳ね廻る

    ジグ、ジグ、ジグ、體を捩らせ
    踊る者共の骨がかちゃかちゃと擦れ合う音が聞こえよう

    靜かに! 突然踊りは止み、押し合いへし合い逃げて行く
    曉を告げる鷄が鳴いたのだ

 

  カザリスの詩に、サン=サーンスは以下の様に曲附けを行っています:

 

  ① 夜中の12時、死神が墓場に現れる:

    ――ハープが12回、Dの音を奏でる

 

  ② 死神がヴァイオリンを彈く:

    ――獨奏ヴァイオリンがAとE♭の不協和音で死神らしい雰圍氣を表す

 

  ③ 骸骨の踊る不氣味なワルツ:

    ――フルート、後に弦樂合奏で「怒りの日」に基づく主題が奏される

 

  ④ カチャカチャと骨の擦れる音

    ――シロフォンを用いる

 

  ⑤ 朝を告げる雄鷄の鳴き聲

    ――突然曲が止み、オーボエの旋律が現れる

 

  そして激しく踊っていた骸骨達が墓場に歸り、曲が靜かに終わる

  
  上述の死神のヴァイオリンの動機、フルートの主題、ヴァイオリンに提示される”largamente"と指示された氣怠い旋律と謂う3つが變奏を繰り返して行く構成と為っています。

 

  今日紹介させて頂くのは、シャルル・ミュンシュの指揮するアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦樂團に由り1948年に行われたセッション録音です。

 

  此れは、ミュンシュがコンセルトヘボウ管を指揮した貴重なセッション録音で、同時期にオシー・レナルディのソロに由るブラームスのヴァイオリン協奏曲の録音が為されていて、何れも素晴らしく聽き應えの有る演奏です。

 

  冒頭の①のハープ、②の死神のヴァイオリン獨奏と謂い、③の「怒りの日」の主題のフルートと謂い、⑤の雄鷄の鳴き聲のオーボエと謂い、此のオケの實力が餘す所無く發揮されている名演であると云えましょう。又、何とと云っても骸骨の踊る樣を表現している弦樂器と金管のリズミカルなアンサンブルが素晴らしいのでないでしょうか。ライヴではないものの、ミュンシュも乘り乘りである樣子が犇々と傳わって來る樣です。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Charles Munch (Dirigent)

    Concertgebouw-Orkest Amsterdam

 

(1948)