クナッパーツブッシュのリスト《マゼッパ》S.100 

 

Franz Liszt

《Mazeppa》

Sinfonische Dichtung "Mazeppa" S.100

 

 

 

 

  今日採り上げるのは、リストの交響詩《マゼッパ》S.100です。

 

  此の曲は、フランツ・リストの音樂作品です。

  因みに、このタイトルは複數の作品に附けられていて、ピアノ作品《超絶技巧練習曲》の第4番(S.139-4)、及び交響詩の第6番(S.100)が良く知られています。外には、此れ等の元となったピアノ曲、ピアノ聯彈及び2臺のピアノの為の編曲等が存在しています。

 

  交響詩第6番《マゼッパ》S.100は、リストがドイツのザクセン=ヴァイマール=アイゼナハ大公國のヴァイマールに於いて1851年に書き上げ、1854年に改訂を施した者で、ヴィクトル・ユゴーの叙事詩《マゼッパ》に基づいた標題音樂です。ピアノ曲《マゼッパ》と同じタイトルではある者の、單なる其の管弦樂編曲版ではなくして、同じ曲想を持った別の作品と云い得る程に内容と規模が擴大されています。

  最初にコラールが混じった激しい闘爭が現れ、其れが一旦靜まりると、トランペットのファンファーレを經て最後の勝利の大行進曲が遣って來るといった構成と成っていて、戰闘後の曲の展開等は寧ろ交響詩第3番《前奏曲》や交響詩第13番《揺籠から墓場迄》に類似している感じです。

 

  今日紹介させて頂くのは、ハンス・クナッパーツブッシュの指揮するベルリン國立歌劇場管弦樂團に由り1933年に行われたセッション録音です。

 

  此の曲に關しては、一般にはカラヤン指揮ベルリンフィルの演奏が名盤として有名で、質の高い響きのする凄まじい物量感を具えた演奏で、聽き手は思わず聽き惚れてしまうに相違有りません。先ず風雲急を告げる音樂から始まり、重厚なテーマが金管樂器に由って響き渡る所等は、如何にもマゼッパの數奇な生涯を暗示しているかの樣です。此の重厚なテーマがもう2度力強く吹奏されると、嵐の樣な音樂は一旦止んでウクライナの自然を映す樣に優しい場面の音樂に變わります。そして、音樂は浮沈を重ね乍らマゼッパの起伏に富んだ物語を描き出して行きます。大きな山場を迎えて重厚なテーマが再び力強く演奏されると、其れを境に明るい輝かしさを獲得して華々しい中間部を迎えます。其處で何かの衝擊の如く深く沈み込み、地を這う樣な響きへと變わり、悲痛な呻き聲にも似た音樂が暫く續いて息苦しさを感じさせた後、ファンファーレが響いて輝く樣な勇壯な音樂へと變わり、其の明るい樂想の儘、コサックの生活を描く樣に、舞蹈的な音樂と勇壯な音樂を以って後半のクライマックスが築かれ、最後は華々しいトランペットの音で終結します。

  クナッパーツブッシュの演奏は、録音年代の相違も有ってか、大時代的な響きがし、導入部はカラヤンよりも更に悲劇味が増している感が有ります。そして、導入部の激しい部分からほっとする描寫へと變わる部分が特徴的で、遲いゆったりとしたテンポ設定で、就中不安な氣分にさせる弦樂器がクナならではの微に入った動きを呈します。其の後のテーマが繰り返される部分は、音樂が深く沈み込む其の沈鬱な表情が實に素晴らしく、宛も底無しの深みに填り込んでしまいそうな暗い響きが何とも云えません。そして、場面轉換の後の民族音樂的な盛り上がりの部分は、故意にそうしているのではないかと思う程に恐ろしくゆっくりとしたテンポと深いリズムで演奏されていて、舞蹈的な音樂がかなり不必要な重さを感じさせてしまうが故に、最後のファンファーレから終結部迄引き摺る樣で、其のテンポに呑込まれて弦樂器が何處かへ行ってしまっている樣な箇所も有るのですが、クナのファンにとっては此れが亦た堪らぬ魅力なのではないかとも思われます。若しも此れが生のコンサートだったら、さぞかし凄まじい迫力の演奏であったであろうと思われるのですが、殘念ながら流石に想像の域を出ません。惟、斯うした演奏に魅力を感じてしまった曉には、カラヤンの演奏がどんちゃん騷ぎに思えて來てしまうのも確かではあります。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Hans Knappertsbusch (Dirigent)

    Preußische Staatskapelle Berlin

 

 

(1933.04.21)