クライバーのリスト    《前奏曲》S.97

 

Franz Liszt

《Les Préludes》

Sinfonische Dichtung ”Die Vorspiele””

 

 

  今日採り上げるのは、リストの交響詩《前奏曲》S.97です。

 

  此の曲は、フランツ・リストに由り1854年に作曲された交響詩で、リストの13曲存在する同ジャンルの代表作でもあります。「人生は死への前奏曲」というアルフォンス・ド・ラマルティーヌの誌に基づき、リストの人生觀が歌い上げられた當作品ですが、原曲はオートランという詩人の詩に基づいた男聲合唱曲「四大元素」の為の序曲として、其の合唱曲に使われた主題を用いて1848年に作曲された樂曲で、後に此れを改訂した上で獨立した交響詩として發表する際に、ラマルティーヌの詩『詩的瞑想録』を再編成した上で樂曲の標題として附加したものであると云います。

  初演はリスト自らの指揮に由り1854年にヴァイマールで行われています。

 

  曲の構成に就いては、2つの主題を用いた4部構成(緩ー急ー緩ー急)の形式を持つ一種の變奏曲と看做す事が出來ます。第1部は、低音樂器が死へと向かわむとする人生の始まりを暗示する主題を、そしてホルンが深い主題で愛を歌う第2主題を奏し、變奏して行きます。第2部では人生の嵐が描かれ、激しい嵐に金管樂器のファンファーレが加わって全曲中のクライマックスを迎えます。第3部は嵐の後の慰めの音樂で、ホルンの穩やかな旋律に、靜かで平和な田園生活が描かれています。第4部は運命に果敢に挑もうとする勇ましい行進曲で、高音樂器が急速に音階を上下する中で金管樂器が華やかにファンファーレを奏し、續いて冒頭の主題から變奏された全合奏の行進曲へと發展します。そして最後は速度を落とし、死の主題を變形した旋律を高らかに奏して華々しく曲を閉じます。

 

  今日紹介させて頂くのはエーリヒ・クライバーの指揮するチェコ・フィルハーモニー管弦樂團に由り1936年に行われたセッション録音です。

 

  此の曲はリストの13曲有る交響詩の中で最も頻繁に演奏される曲であるだけに、俗に名盤と云われるものも多く、其の代表例が1954年のフルトヴェングラーがWPを指揮した者と1929年のメンゲルベルクがCOAを指揮した者と云って差支え無いでありましょう。前者は気宇壯大で音樂の流れが殊の外自然な演奏で、後者は部分部分に於いて入念な表情附けが為された明暗のはっきりとした色彩の濃い物語と成っていて、語り口の巧さという點では他の追隨を許さぬものであると云い得ましょう。

  又、フルトヴェングラーがソナタ形式を根幹に据えた論理の音樂家であるのに對して、メンゲルベルクは其の樣な精密な設計圖等は用意せずして、其の場其の場の情況に合わせて機敏に反應してい行くと謂った即興性に優れた指揮者である樣に思えます。

  此のクライバーの演奏はスケールの壯大さに掛けてはフルトヴェングラーやメンゲルベルクに一歩讓るとは雖も、きびきびとしたテンポから來るすっきりさやメリハリの利いた即興性という點に於いては、上述の兩者を凌ぐものがあります。音樂の流れの自然さに於いては決してフルトヴェングラーに引けを取るものではなく、又細部の入念な表情附けに於いてはメンゲルベルク寄りではあるものの、決して遣り過ぎな嫌味は感じさせず、ポルタメントの掛け方やアゴーギクにしてもメンゲルベルクの樣なねちっこさは有りません。そして、劇的という點に至っても決して遜色の無い秀演であり、是非とも一聽して頂きたく、敢えて紹介させて頂いた次第です。

  因みに、クライバーは自らが得意としたベートーヴェンの『田園』も此のチェコ・フィルと名演を殘してくれています。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Erich Kleiber (Dirigent)

    Tschechische Philharmonie Prag 

 

 

(1936)