カラヤンのリスト     《タッソー、悲劇と勝利》

 

Franz Liszt

《Tasso,lamento e trionfo》

Sinfonische Dichtung "Tasso, Klage und Trionfo"

 

 

  今日採り上げるのは、リストの交響詩《タッソー、悲劇と勝利》S.96です。

 

  此の曲は、フランツ・リストが作曲した2番目の交響詩で、1849年にギョエテの生誕100周年祭に當たって、戲曲『タッソー』がヴァイマールで8月28日に上演された際、其の序曲として作曲され、初演されたものです。タッソーは、イタリアのルネサンス期の詩人で、『解放されたイェルサレム』で廣く知られていました。リストは嘗てヴェネツィアで、ゴンドラの船頭がタッソーの「解放されたイェルサレム」を歌うのを聽いて大いに感銘を受けた事が有り、作曲に當たって此のヴェネツィアで聽いた船頭の歌を曲の中心となる主題にし、最初はピアノ曲の形で纏めたのでしたが、偶々其の完成の頃にギョエテの戲曲への序曲を作曲する樣依頼されたが為に、其れを管弦樂の為に變更したのでした。

  作曲に當ってリストは、當初はタッソーの生涯に於ける3つの面、所謂最初のフェラーラに於ける愛と惱み、次にローマで與えられた榮光、最後にヴェネツィアの船頭の歌に迄生きている永遠の生命に由って3部から成る大作を書こうと考えたのでしたが、結局は現在の樣にタッソーの悲劇と勝利を表した2つの部分から成る曲として完成されました。又、1949年の初演後に幾度か手が加えられ、1854年4月19日の再演の際に現在の完成形に成ったと云われています。

 

  曲は、ヴェネツィアの船頭の歌から取られたタッソーの主題がバス・クラリネットに由って提示され、此れが中心と成ってタッソーの悲劇を表した第1部と成り、後半の第2部では高らかな勝利が謳い上げられるといった構成と成っています。

 

  今日紹介させて頂くのは、ヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮するベルリン・フィルハーモニー管弦樂團に由り1975年に行われたセッション録音です。

 

  リストが此の曲で題材としているのはイェルサレム奪回を描いた「解放されたイェルサレム」ではなくして、愛欲に溺れた人を主人公に据え、其の後の人生は……という展開と成っていて、魂の解放という所に焦點が當えられていると云えましょう。

  カラヤンは、甜い愛の生活と裏切り、榮華と衰退、悲劇と勝利という兩極を大きく描き切っていて、其の華麗な旋律美は聽き手を魅了するに充分で、正にカラヤン時代全盛期のベルリンフィルならではの快演であると云い得るのではないでしょうか。

 

  

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Herbert von Karajan (Dirigent)

    Berliner Philharmonisches Orchester

 

(1975.10.20,21&11.13)