シューリヒトのフンパーディンク《ヘンゼルとグレーテル》

 

Engelbert Humperdinck

Ouvertüre zu "Hänsel und Gretel"

 

 

 

  今日採り上げるのは、フンパーディンクの歌劇《ヘンゼルとグレーテル》の序曲です。

 

  《ヘンゼルとグレーテル》は、ドイツの作曲家であるエンゲルト・フンパーディンクの作曲した全3幕から成るオペラで、原作は有名なグリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』です。臺本は、作曲者の妹であるアーデルハイト・ヴェッテに由る者で、圖らずも題材と同じ兄妹のコンビと成っています。1891年から1892年に掛けてフランクフルトで作曲が為され、1893年12月23日にクリスマスの芝居としてヴァイマール劇場にて初演が行われて忽ち大好評を博し、爾後ロンドンやニューヨークでも公演されています。フンパーディンクの代表作であるこの樂曲は、ワーグナー以後・リヒャルト・シュトラウス(本作の初演を指揮)以前のドイツ・オペラを代表する作品であると云われています。又、ワーグナー以後に多く現れたメルヒェン・オペラの代表的作品ともされていて、特にドイツ圏では120年以上が經った今も猶上演回數上位に位置する人氣作で、大人から子供までが樂しめる定番オペラと成っている樣です。

 

  物語の簡單な粗筋は以下の樣なものです:

 

  オペラの舞臺はドイツで、貧しい家に生まれた仲の良い兄のヘンゼルと妹のグレーテルが、留守番中に家の手傳いをサボって遊んでいる所に母親が歸って來ます。其れに腹を立てた母親に野苺摘みを命じられ、森に出掛けた二人は、奥深く入り込んだ擧句道に迷ってしまいます。其處に「眠りの精」が現れて眠らされてしまいますが、「曉の精」のお蔭で翌朝に目を覺ますと、目の前にお菓子の家が建っていました。お腹が空いていた二人が喜んでお菓子の家を食べていると、家の中から出て來た魔女に捕まってしまい、食べられそうに成るものの、機轉を利かせて魔女を退治します。すると、お菓子にされていた他の子供達の魔法も解け、最終的に二人を探しに遣って來た兩親とも再會して喜び合い、ハッピーエンドと成ります。

 

  原作であるグリム童話とは異なった設定が多く、最大の改變は母親が口喧くはあるものの、善良な性格の實母に成っている點で、其れ故に略全面的なハッピーエンディングの物語と成っていて、此れは子供向けである事を考慮したものであるとの説も有る樣です。

  

  序曲ですが、冒頭はオペラの第2幕でヘンゼルとグレーテルが眠る前に歌う「夕べの祈り」の主題で、4本のホルンに由って奏でられ、其のホルン特有の美しい響きがドイツの深い森へと聽き手を誘うと共に、此れから始まる樂しいオペラの雰圍氣が釀し出されます。次に登場するトランペットの元氣なメロディーは、第3幕の最後で子供達が魔法から解かれた時に鳴り響く「魔法を解く主題」で、一變して明るい雰圍氣に成ります。其の後、森で目を覺ましたグレーテルの歌う「曉の精」の歌、「朝の主題」が弦樂器に由って美しく奏でられ、續いて魔法を解かれた子供達の「喜びの主題」をオーボエが奏で、更に樣々なモティーフが絡まり合い乍ら曲が進行し、最後に「夕べの祈り」の主題に戻って行きます。此の短い序曲には、オペラの中の名場面の音樂が澤山鏤められているのです。

 

  今日紹介させて頂くのは、カール・シューリヒトの指揮するハンブルク北ドイツ放送交響樂團に由り1962年に行われた演奏會のライヴ録音です。

 

  指揮者のシューリヒトは、嘗てベルリンのシュテルン音樂院に於いてフンパーディンクに作曲を師事した經驗を有する事から、フンパーデインクの弟子であると云う事も出來ましょう。其れに加えて、一つの物語と成っている曲の演奏を得意とする指揮者でもある事からして、素晴らしい演奏である事は無論云う迄も有りません。

  此の序曲の演奏には、クリュイタンスとウィーン・フィルやレーマンとミュンヒェン・フィルと謂った名盤が有り、前者は「魔法を解く主題」が實に輕快且つ愉快に演奏されている點が素晴らしい反面、ホルンに由る冒頭の「夕べの祈り」の主題が些かあっさりとし過ぎているのに物足り無さが感じられるのに對して、後者は其の逆で、深さでは勝っているものの、幾分輕妙さを欠いている嫌いが無きにしも非ずです。其の點、此のシューリヒトの演奏は上述の兩者の優れた點を兼ね備え、而もチャーミングであるという點に於いてより勝っているのではないかというのが小生の率直な感想です。そして、ライヴであると謂うのも貴重なのではないでしょうか?

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Carl Schuricht (Dirigent)

    Sinfonieorchester des Norddeutschen Rndfunks

  Hamburg

 

(1962 Live)