ケンペのスメタナ     《賣られた花嫁》

 

Bedřich Smetana

Friedrich Smetana 

Prodaná nevěsta

Ouvertüre zu "Die verkautfe Braut"

 

 

 

  今日採り上げるのは、スメタナの歌劇《賣られた花嫁》の序曲です。

 

  《賣られた花嫁》は、ベドルジハ・スメタナが作曲した全3幕からなるオペラ・ブッファで、チェコの代表的な國民オペラ作品として名高いものです。序曲は特に有名で、單獨で演奏會に取りあげられる事も多々有る樣です。

 

  臺本作家はカレル・サビナで、作曲は1863年から1866年に掛けて為され、1866年5月30日に初演が行われた後に改訂が施され、1870年9月25日にプラハの國民假劇場に於いて決定稿の初演が行われています。

 

  チェコ語で書かれたチェコ國民オペラを代表する作品ではあるのですが、作曲技法は終始ロマン派音樂の技法に則ったもので、「國民音樂の創造は民謡の引用や模倣だ」という風潮に抵抗したスメタナは、「民族藝術は現代の作曲技法を採用すべきである」と主張し、具體的な場面描寫以外で民謡を引用する事を避けていました。

  此のオペラに於いても然りで、ポルカ、フリアント、スコチナーと謂った民族舞踊のリズムを持った曲が存在するものの、其れ等は何れも村人達を描寫する為に用いられているに過ぎません。舞曲以外では、大道藝人の行進にボヘミアの傳統的なパストラル(牧歌)の響きが幽かに感じられる程度で、有名な序曲にしても、古典派のソナタ形式に從っていて、民謡の引用や其れ等との類似性は見出す事が出來ません。

  併し乍ら、スメタナは、安直に民謡を引用する事無くロマン派音樂の語法に基づいてボヘミアの農村を活寫した事で、ロマン派音樂の系譜の中にチェコ國民音樂を組み入れる事に成功したのでした。そして、此の成功に由り、チェコ國民音樂は廣くヨーロッパに其の存在感を示す事と成り、ドゥヴォルジャーク、フィビヒ、ヤナーチェクへと道を拓いて行ったのでした。

 

  物語の簡單な粗筋は以下の樣なものです:

 

  農家の娘のマジェンカには戀人であるイェーニクがいるのですが、兩親の勸めで「大地主ミーハ家のボンボン息子(次男)」と無理矢理結婚させられ樣としています。

  又、ミーハ家には二人の息子が居るのですが、長男は放浪の旅に出ていて行方不明と成っています。所が、實は其の息子こそがイェーニクだったのです。但し、イェーニクは自らの素性を明かしてはいません。

  其處でイェーニクは結婚仲介人と「マジェンカはミーハ家の息子以外とは結婚しない」という契約を交わします。其れは、ボンボン息子だけでなく、自分にも當て嵌まる契約だったのでした。

  最後にイェーニクは身分を明かし、計劃通りマジェンカと結婚する事に成功し、ハッピーエンドと成ります。

  

  今日紹介させて頂くのは、ルドルフ・ケンペの指揮するバンベルク交響樂團に由り1962年に行われたセッション録音です。

 

  指揮者ルドルフ・ケンペは、1910年に宿屋の息子としてドレスデン近郊のニーダーポイリッツで生まれたドイツの指揮者で、ドレスデン音樂大學でオーボエを學んで卒業し、1929年にライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦樂團のオーボエ奏者と成ります。當時の此のオケの指揮者はブルーノ・ワルター、コンツェルト・マイステルはシャルル・ミュンシュ、首席ヴィオラ奏者はフランツ・コンヴィチュニーといった顔觸れでした。其の後、1950年にはドレスデン國立歌劇場の音樂監督を務める等、幾つかの歌劇場の音樂監督を務めた後、1956年に病氣の為に一時活動を中斷します。そして、1960年にバイロイト音樂祭に登場し、1963年に至る迄の4年間で《ニーベルンクの指環》を指揮します。爾後、イギリスのロイヤルフィルの首席指揮者等を務める傍ら、1965年から1972年に掛けてチューリヒ・トーンハレ管弦樂團の首席指揮者、1967年以降ミュンヒェン・フィルの首席指揮者を務め、1976年にチューリヒで肝臓癌に由り亡くなっています。

  主にドイツ系作曲家の作品を得意としていましたが、スラヴ系や近代イタリア音樂も指揮しています。

  

  オケのバンベルク交響樂團はと云えば、元は舊プラハ・ドイツ・フィルハーモニー管弦樂團として創立されたオーケストラで、ドイツ系ではありながらも、チェコとは所縁の有るオーケストラであると云えましょう。ドイツ音樂に必須の質實剛健で重心の低い澁い音色を特徴としていた當時の此のオケは、正にケンペの音樂造りにピッタリであったと云って良いのではないでしょうか。それに、ケンペは首席指揮者のカイルベルトと昵懇の仲であった事からして、此のオケとの相性の良さが窺えます。現に同時期に録音されているブラームスの交響曲第2番やシューベルトの《未完成交響曲》は超名演と云っても過言ではない氣が致します。

  此の曲に關しても然りで、元氣一杯の陽氣な弦樂器のリズムから始まり、ザクザク刻むチェロのリズムにヴァイオリンがせわしなく細やかに合わせて行く所などは、聽いていて實に爽快で、ワクワクさせられます。そして、弦樂器が細かい動きでひそひそと始まり、途中で勢いを附けながら段々と盛り上がって行き、中盤でオーボエの輕やかなメロディーが奏され、同じテーマを繰り返して行く所等は、流石は元オーボエ奏者であっただけの事は有ります。そして更に、トランペットやトロンボーン等の金管樂器がアクセントをつけてスカッと締め括るラストも見事です。正に、ロマン派音樂の系譜の中にチェコ國民音樂を組み入れる事に成功したスメタナの音樂に打って附けの名演であると云い得るのではないでしょうか。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Rudolf Kempe (Dirigent)

    Bamberger Symphoniker

 

 

(1962)