シェルヘンのオッフェンバッハ《パリの生活》

 

Jacques Offenbach

《La Vie Parisienne》

Ouvertüre zu "Pariser Leben"

 

 

 

  今日採り上げるのは、オッフェンバッハの喜歌劇《パリの生活》の序曲です。

 

  《パリの生活》は、ジャック・オッフェンバッハが作曲した全4幕からなるオペラ・ブッフ(又はオペレッタ)で、1866年10月31日にパリのパレ・ロワイヤル劇場で初演が為されています。フランス語の音讀其の儘に《ラ・ヴィ・パリジェンヌ》と標記される此の作品は、初演時は5幕構成であったのですが、1873年9月25日のパリのヴェリエテでの上演以降、4幕構成に改訂されています。但し、5幕版で上演される事も有る樣です。又、オッフェンバッハ上演史に於いては重要な作品で、日本では馴染み薄ではあるものの、歐洲では上演の機會が多い樣です。

 

  「パリ・オペレッタの最高傑作とも云い得るもので、生真面目な北歐人や成金ブラジル人の觀光客を徹底的に揶揄し、上邊だけが華やかに彩られた19世紀のパリを映し出している」とも云々された本作は、パリ萬國博覽會を紀念して制作されたオペレッタで、元来專ら音樂を伴わぬ演劇を上演する劇場であったパレ・ロワイヤル劇場の支配人が民衆の當時の嗜好を勘案し、オペレッタの上演を希望したものと云われています。初演は大成功で、1年間で217回も上演が續いたそうです。

 

  第二帝政期にフランス經濟は急成長を遂げたのですが、急速な産業化の進展に伴い、人口が地方から都市へと流入し、パリの人口も大幅に増加し、鐵道も急速に整備されます。此の時代はパリ最大の變革期で、セーヌ縣知事ジョルジュ・オスマンの都市整備に由り、パリは一層魅力的な大都市と成り、2回目となるパリ萬國博覽會が1867年4月1日から11月3日迄開催されています。斯うした情況の下、《パリの生活》で次の樣な社會的情景が描寫されます:「拜金思想が蔓延って、お金目當ての結婚や貴婦人を装う高級娼婦が流行した。社交界に似た如何わしい疑似社交界為る者が出現した。サロンにクラブ・ハウスを持ち込み、假面舞蹈會、競馬倶樂部、カフェが繁昌した。上邊だけの陽氣さとは裏腹に、メランコリーや憂鬱が廣まり、ヴォルテール流の思想が滲透した。大通りではボヘミアンやジャーナリスト達が葉巻で時を過ごした。」

 

  物語の粗筋は以下の通りです:

 

  ラウルとボビネの二人は共に高級娼婦メテラに入れ込んでいましたが、遊びに金を使い果たし、金の切れ目は縁の切れ目との言葉通り、メテラは別の男へ鞍替えしてしまいます。未練たっぷりの二人は觀光客で賑わうパリの驛で彼女を待ち伏せしますが、男と現れた彼女は二人を一瞥して「こんな人、全然知らないわ!」と無視します。仕方なく戀は諦めてスッカラカンの懷を滿たすべく「カモ」を見つけます。スウェーデンの金持ち男爵夫婦がパリ見物に来たと知り、ガイド役にすり替わり、ホテルと偽ってラウルのアパルトメントに案内します。
  男爵は、地元の友人がパリでメテラと遊んで夢のように樂しかったと聞き、彼女とアヴァンチュールを樂しもうと胸を高鳴らせています。もちろんメテラをよく知るラウルは彼女を紹介し、奥方にバレないよう別々にパーティーを催したり觀劇に連れて行ったり惡戰苦闘します。パーティーといってもお客は使用人たちが變装してのナンチャッテ社交界です。靴屋のフリックや手袋屋のガブリエル、召使たちが侯爵夫人や大佐を熱演しますが、どうしてもボロが出てしまい、男爵を酔いつぶしてゴマかす始末。
  ラウルは奥方の方も誘惑して貢がせようとしますが、こちらも失敗。怒った奥方と親戚2人は、ドン・ジョヴァンニの假面の3人宜しく、男爵とメテラがいるパーティー會場に假面を着けて乗り込んできます。何とかメテラと逢瀬をと彼女を口説く男爵ですが、メテラは「私の心は別の男性のものだから」と拒絶します。結局メテラは元彼ラウルの元へ、フリックとガブリエルもカップル成立、奥方も哀れなご主人を許して大團圓と成り、パリの夜はフレンチカンカンで華やかに更けて行くのでした。

 

  今日紹介させて頂くのは、ヘルマン・シェルヘンの指揮するウィーン國立歌劇場管弦樂團により行われたセッション録音です。

 

  「鬼才シェルヘン」との言葉に相應しく、大膽にして恰幅の良い演奏を繰り擴げていて、些かウィーン的な感じがしなくも無いのですが、オッフェンバッハが本作品で揶揄しようとした當時の上邊だけが華やで陽氣だったパリの樣子をリアルに描いていると云えるのではないでしょうか。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Hermann Scherchen (Dirigent)

    Wiener Staatsoper Orchester

 

 

(録音年不詳)