カラヤンのオッフェンバッハ《青髭》

 

Jacques Offenbach

《Barbe-bleue》

Ouvertüre zu "Blaubart"

 

 

  今日採り上げるのは、オッフェンバッハの喜歌劇《青髭》の序曲です。

 

  《青髭》はジャック・オッフェンバッハが作曲した全3幕から成るオペラ・ブッフ(又はオペレッタ)で、1866年2月5日に、パリのヴァリエテ座にて初演されたオッフェンバッハ圓熟期の傑作の一つです。併し乍ら、《地獄のオルフェ》や《美しきエレーヌ》と謂った成功作に比べられる程の人氣を博する事は出來なかった樣です。

 

  《青髭》の物語に就いては、シャルル・ペロー執筆の童話『青髭』(1697年)を原作としてはいるものの、中世傳説の持つ陰慘な雰圍氣は皆無で、徹底的にパロディー化され、鋭い世相諷刺とも成っています。本作は、無類の漁色家として知られるフランス第二帝政の皇帝ナポレオン3世の治世の下で作曲されたもので、「當時の聽衆は青髭のパロディーに成り済ました表面上の面白さだけでなく、ナポレオン3世の政權内での實生活に對する隱された多くの嘲りを樂しんだ」と云います。初演は大成功で、其の後1年半で130回上演されたそうです。

  

  因みに、オッフェンバッハは此の作品に於いて、當時のヒット・ソングと成ったオスカル伯爵の「其れは難しい仕事」等を初めとする彼の最上級とも云い得る音樂を多數生み出しています。

 

  物語の粗筋は以下の通りです:

 

  舞臺はフランスのブルターニュ地方で、村娘のフルレットと羊飼いのダフニスは愛し合っています。

  フルレットは實はかつて行方不明になったポベーシュ王の娘エルミア王女で、またダフニスも實は王子の身で本當の名前はサフィールと言います。

  そして村にはブロットという男好きでちょっと(かなり)淫蕩な女性も居ます。

  此のブロットは青ひげの6番目の妻に選ばれて結婚することに成るのですが、エルミアを見かけた青髭はもうエルミアの方に心を奪われている樣子です。

  すると、ひょんな事からフルレットがエルミア王女であることが判明し、ポベーシュ王の宮殿に行く事になり、自分の結婚相手の王子がダフニスならぬサフィールだったことを知り喜びます。

  一方ポベーシュ王は嫉妬深くて、妻が話をしていたというだけで家臣を殺してしまうという困り者の王で、既に5人も死刑に處しています。

  さて、青髭城では(童話に因んで)6番目の妻であるブロットを殺すよう青髭げがポポラニに命じますが、實は妻たちはみなポポラニには殺されてはおらずに生きていて、ブロットも死んだふりをする事に成ります。

  ブロットは死んだとものと思っていた青髭は、エルミアを7番目の妻にしようとポベーシュ王の宮殿に遣って來ます。

  エルミアを奪いに來た青髭を看て、サフィールは決闘を申し込みますが、あっさり遣られてしまい、エルミアは悲しみます。

  其處に青髭に殺された筈の妻達、ポベーシュ王に殺された筈の家來達、其れにブロットらが遣って來て、自分達は殺されそうになったが生きていると訴えると、王と青髭は懺悔することになります。

  最後は夫々がカップルになり、合同で結婚式を擧げる事に成ってハッピーエンドとなります。

 

  今日紹介させて頂くのは、ヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮するベルリン・フィルハーモニー管弦樂團に由り1980年の6月と9月に行われたセッション録音です。

 

  《青髭》序曲は、《地獄のオルフェ》や《美しきエレーヌ》とは違って、演奏會では殆ど採り上げられない曲の樣で、録音自體餘り行われてはいないだけに、實に貴重なものであると云えそうです。

  此の演奏は、出足からゆっくり目のテンポで、重厚で落ち着いた而も交響的な仕上がりと成っていて、其の分オッフェンバッハの持つ輕快さが失われている感が否めません。フランスのオペレッタなのだから、もっと洒脱で輕やかな演奏でも良いのではないか?と思わずにはいられないのは果たして小生だけでしょうか?然し乍ら、異なる角度から看るならば、此れこそがカラヤンの優れた所でもあり、如何なる曲であろうとも、自らの美學の範疇に收め、而も其れ等を殊の外美しく完璧なものに仕上げているのは流石としか云い樣が有りません。

  特に、曲の途中で現れるワルツは、官能的とも云い得る程、聽いていてぞくぞくする美しさを具えています。正に「カラヤン美學茲に在り」とは此の謂いでありましょう。全盛期を過ぎたBPOではありながらも、アンサンブルの巧さは抜群で、斯うした耽美的な演奏は他では決して聽き得ないものです。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Herbert von Karajan (Dirigent)

     Berliner Philharmonisches Orchester

 

 

(1980.06.10,12-13, 09.30)