メンゲルベルクのシューベルト《ロザムンデ》

 

Franz Schubert

Ouvertüre zu "Rosamunde, Prinzessin von Zypern" Op.26 D.797

(《Die Zauberharfe》D 644)

 

 

 

  今日採り上げるのは、シューベルトの劇附隨音樂《ロザムンデ》作品26 D797の序曲です。

 

  《キプロスの女王ロザムンデ》作品26 D797は、フランツ・シューベルトが同名のロマン劇の為に作曲した劇附隨音樂で、通常は《ロザムンデ》と略稱されています。

 

  此の附隨音樂は、ベルリン出身の女流作家ヘルミーネ・フォン・シェジーの戲曲《キプロスの女王ロザムンデ》の為に作曲されたものです。シェジーは、1823年の10月にウェーバーの歌劇《オイリアンテ》の臺本を書き、其の初演に立ち會う為にウィーンに滯在していましたが、10月25日にケルントナートーア劇場で行われた上演が不評であったが為に、急遽名誉挽回の為に《ロザムンデ》を12月20日に書き上げ、ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で上演しました。併し劇は翌日再演されただけで上演が打ち切られてしまいました。其の劇音樂の作曲を依頼されたのがシューベルトで、12月20日の初演迄の短い期間で、10曲から成る附隨音樂を完成させたと云います。

  惟、其の時序曲のみが間に合わず、其の前年に作曲された歌劇《アルフォンソとエストレッラ》D732の序曲が轉用されました。

  《アルフォンソとエストレッラ》は、シューベルトにとってのかなりの自信作であったらしいのですが、ウィーンで上演される事が無かったが故に、せめて序曲だけでも人々の耳に觸れさせたいという意圖が有ったものと考えられています。

  爾後、1820年に作曲されてかなりの評判を得た劇附隨音樂《魔法の竪琴》D644の序曲が《ロザムンデ》の序曲として轉用されたのですが、此の《魔法の竪琴》序曲の自筆の草稿には、後に何者かに由って《ロザムンデ作品26》というタイトルが書き込まれていた關係で、かなりややこしく成っている樣です。

 

  上述の通り、1823年12月20日にアン・デア・ウィーン劇場で行われた初演は、臺本の稚拙さ故に失敗に終わってしまいます。

  舞臺灣が貧弱であった事や、主役の女優が下手だった事、其れにウェーバーとシューベルトが《オイリアンテ》の事で仲違いしたが為に、ウェーバーの支持者達が可能な限り上演を妨害した事等が原因として擧げられている樣です。併し乍ら、シューベルトの音樂自體は、初演當時から好評を以って迎えられたのは事實で、現在に於いても部分的には度々演奏されています。

 

  ロザムンデはキプロス王の娘で、彼女が2歳の時に父親が死に、父の遺言に由り貧しい船乗りの未亡人アクサに預けられ、18歳に成る迄養育されます。其れを知る市長アルパヌスが、彼女が18歳の誕生日に、長い間死んだと思われていたロザムンデが今猶健在で、キプロスの唯一の正當な統治者である事を布告します。

  所が、其れ迄の代理の統治者であったフルゲンティアスという人物が、支配者という地位を失いたく無いが故に、ロザムンデを自らの妻に迎え樣としますが、其れに失敗し、一轉して暗殺しようとします。此のロザムンデの暗殺を防いだのがマンフレートという青年ですが、其の實彼はロザムンデが幼少の頃から定められていた婚約者のカンディア王子アルフォンスだったのでした。

  フルゲンティアスはロザムンデ暗殺の為に用意した毒の罠に誤って自ら填ってしまい、自滅してしまいます。そして最終的に、ロザムンデとアルフォンスが結ばれてハッピーエンドに成るという物語です。

 

  序曲は、アンダンテ(ハ短調)の序奏とアレグロ。ヴィヴァーチェ(ハ長調)の主部から成り、序奏は抒情的且つロマン的な旋律の美しさがとても印象的です。主部はソナタ形式に由る單純な形が採られていて、親しみ易い樂想を有しています。此れは序曲《魔法の竪琴》D644からの轉用ですが、コーダはイタリア風序曲ニ長調D590と同じと成っています。

 

  今日紹介させて頂くのは、ウィレム・メンゲルベルクの指揮するアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦樂團に由り1940年12月19日に行われた演奏會のライヴ録音です。

  

  抒情的な旋律の美しさが特徴の序奏を、メンゲルベルクはポルタメントとルバートを驅使しつつ此れ以上無い程ロマンティックに歌い上げています。主部では一轉して、かなり速めのテンポで彈む樣に奏する事で、雄渾さと活氣に滿ち溢れた音樂に仕上がっていて、ポルタメント氣味の弦の音が極めて印象的で、其れが却って格調の高さを釀し出しており、聽いていて實に快く、得も言われぬ魅力を感じます。外では決して味わう事の出來ない演奏です。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Willem Mengelberg (Dirigent)

      Concertgebouw-Orkest Amsterdam

 

 

(1940.12.19 Live)

 

※ 序曲以外に、間奏曲第3番とバレー音樂第2番とが續けて收まっています。何れも名演ですので、どうぞお聽きに成られてみて下さい!