ケルのサン=サーンス  Op.167

 

Camille Saint-Saëns

Sonate für Klarinette und Klavier 

Es-Dur Op.167

 

 

  今日採り上げるのは、サン=サーンスのクラリネットとピアノの為のソナタ 変ホ長調 作品167です。

 

  此の曲は、サン=サーンスが亡くなる年の1921年にパリで書かれ、當時パリ音樂院の教授であったオーギュスト・ペリエに獻呈されました。晩年のサン=サーンスが「殆ど顧みられて來なかった樂器」にレパートリーを提供しようと考えて書いた作品で、同時期にオーボエ・ソナタやファゴット・ソナタも書かれています。此れに續けて管樂器の為のソナタを複數作曲する預定であったと傳えられていますが、既に死去していたドビュッシー(晩年に3曲のソナタを作曲)と同樣に、其の構想は果たせずに終わりました。

  作品は、サン=サーンスが好んだ簡潔なテクスチュアで書かれていて、新古典主義音樂に通じる澄み渡った響きが印象的で、ソナタ形式の樂章を含ます、古典派以降のソナタの傳統よりも、寧ろバロック期の組曲に近い性格を具えています。

 

  ゆったりとして牧歌的な主題が伸び伸びと歌われる三部形式の第1樂章;ガヴォットを想わせる拍の重心の置き方に特徴の有る軽やかなスケルツォの第2樂章;ずっしりと重く暗いコラールが低音域で提示された後、クラリネットの音色の對比を利用しつつ、「サン=サーンスの全作品で最も感動的なものの一つ」と評される痛ましくも美しい旋律がピアニッシモで繰り返される第3樂章;冒頭からクラリネットに由る急速な分散和音とスケールが續き、樣々な動機が入り亂れ、途中で第1樂章の主題が變調された形でシンコペーションを伴って再現され、冒頭の分散和音がト長調で戻ってきた後、第1樂章の主題が完全な形で回想され、靜かに曲を閉じる第4樂章といった全4樂章構成となっています。

 

  今日採り上げたのは、レジナルド・ケルのクラリネット、プルックス・スミスのピアノという組み合わせのデュオが1957年5月27日行ったセッション録音です。

 

  クラリネットのヴィルトゥオーゾで、ベニー・グッドマンを教えた事の有るケルは、當初はヴァイオリンの學習者だったそうで、其の影響からか、表情的なヴィブラートを驅使したデュナーミクの幅の大きいフレーズを特徴としています。そして、フレーズの頂點をテヌートで引っ張り、抑揚を重視するのは弦樂器奏者宛らで、安定したブレスを旨とする管樂器奏者の中では異彩を放っている存在です。そうした特徴を存分に驅使する事で、クラリネットの美しさを存分に引き出した名曲サン=サーンスのソナタの演奏こそ正にケルの真骨頂と云い得るもので、表情豊かなケルの演奏が流麗な旋律美の真價を餘す所なく傳えています。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Reginald Kell (Klarinette)

    Brooks Smith (Klavier)

 

 

Satz: I

 

Satz: II

 

Satz: III

 

Satz: IV