スターンのベートーヴェン Nr.10  Op.96

 

Ludwig van Beethoven

Sonate für Violine und Klavier Nr.10 G-Dur Op.96

 

 

  今日採り上げるのは、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ 第10番 ト長調

作品96です。

 

  此の曲は、ベートーヴェンが前作の第9番から9年が經った1812年の2月から11月に掛けて書き上げた最終作となるヴァイオリン・ソナタで、創作後期に於ける唯一のヴァイオリン曲でもあり、後のシューマンやブラームスの作品に通じる自由な構成の作品です。

  初演は1812年の12月29日に行われています。

 

  冒頭からヴァイオリンのトリルで伸びやかな展開を見せ、下屬調和音をゆったりと歌い上げる第1樂章;歌謡風の落ち着いた主題の緩徐樂章で、アタッカで第3樂章と繋げて演奏される第2樂章;タイを使って強調してはいるものの、第9番等の壮年期の作品とは異なり、激しさが影を濳めているスケルツォの第3樂章;主題と8つの變奏に由る變奏曲で、隨所に休符を入れて柔和な演出をし、第7變奏で後期作品の特徴であるフーガが小規模ながら使われている第4樂章といった全4樂章構成と成っています。

 

  今日採り上げたのは、アイザーク・スターンのヴァイオリン、マイラ・ヘスのピアノという組み合わせで1960年8月28日にエディンバラ國際フェスティヴァルで行われたコンサートのライヴ録音です。

 

  ピアノのマイラ・ヘス女史は、1890年にロンドンのユダヤ系の家庭に生まれた英國のピアニストで、王立音樂アカデミーに學び、1907年にベート―ヴェンのピアノ協奏曲第4番を演奏してデビューし、其の後イギリスと北米で演奏旅行に取り組みます。第二次大戰中は、全ての演奏會場が閉鎖された事で、ロンドンのナショナル・ギャラリー等でランチタイム・コンサートを企劃して自ら演奏家として出演する等して、大きな評判を呼びました。特にモーツァルトやベートーヴェン、シューマンの演奏家として有名ですが、現代音樂に至る迄、其のレパートリーには幅廣いものがあるのみならず、室内樂に於いても大いに活躍しました。1961年に脳梗塞故に演奏活動からの引退を餘儀なくされましたが、晩年まで弟子の育成に取り組み、1965年にロンドンの自宅で心臓發作の為亡くなっています。

  スターンとヘスはソリストとして普く廣く知られている存在ですが、兩者共室内樂に情熱を持ち、マイラ・ヘスの晩年にデュオ・リサイタルで屡共演していて、この演奏も其の中の一つです。因みに、此のエディンバラ音樂祭の當日のプログラムは、ブラームスの第2番のソナタに始まり、シューベルトのソナチネ第1番、ファガーソンのソナタを挟んで此のベートーヴェンの第10番で締め括るというものでした。

  室内樂を愛して已まなかった兩者の豊かな音樂性が香り立つ秀演であると云えるのではないでしょうか。

  スターンは1980年代にイストミンとベートーヴェンの全曲をセッション録音していますが、小生に云わせれば、スターンは矢張りライヴの人であり、其の意味でセッション録音では味わえない「らしさ」がより強く感じられる演奏なのではないでしょうか……。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Isaac Stern (Violine)

     Myra Hess (Klavier)

 

 

 

(1960.08.28 Edinburgh Live)