オイストラフのベートーヴェン Nr.6  Op.30-1

 

Ludwig van Beethoven

Sonate für Violine und Klavier Nr.6 A-Dur Op.30-1

 

 

  今日採り上げるのは、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ 第6番 イ長調

作品30-1です。

 

  此の曲は、ベートーヴェンが1802年に作曲し、ロシア皇帝アレクサンドル1世に獻呈された「アレキサンダー・ソナタ」全3曲中の第1曲で、次作の第7番、次々作の第8番とも異なり、穩やかな緩さが全曲を覆っている感じです。

  元々最終樂章は第9番『クローツェル・ソナタ』の其れであるタランテラになる預定であったと云われています。

  ベートーヴェンは此處に華々しい効果を期待するよりは、次作の華やかにして雄渾なる曲想を際立たせようとしたのでしょうか、伸びやかな變奏曲樂章を置いています。

 

  16分音符の附いた主題が特徴的で、オクターヴ奏法とユニゾンが多用され、アレグロ樂章として落ち着いた演奏が適切であるソナタ形式の第1樂章;主題がヴァイオリンで導入され、附点リズムで春風駘蕩といった雰圍氣を釀す複合三部形式の第2樂章;主題と6つの變奏からなり、ヴァイオリンの「E-A-Cis-Ais-H-H-A-Gis-Fis-Gis-A」の主題をピアノのアルベルティ・バスが支える第3樂章といった全3樂章構成となっています。

 

  今日採り上げたのは、ダヴィード・オイストラフのヴァイオリン、スヴャトスラフ・リヒテルのピアノという豪華コンビが1967年10月29日にモスクワで行ったコンサートのライヴ録音です。

  オイストラフの奏するベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタと云えば、真っ先に思い浮かぶのはオボーリンとのデュオによる全曲のセッション録音で、ピアノにも耳が行く名盤として名高いものでしたが、茲で採り上げる共演者はオボーリンではなく、名匠リヒテルです。兩者が共演を始めたのは1967年なのだそうで、其れは殆ど晩年の僅かな期間であった事になります。子息で同じくヴァイオリニストのイーゴリ・オイストラフに據ると、「二人は作曲家の意思、つまりテンポ、強弱、アゴーギク、全體的なコンセプトに忠實である事が最良の演奏を生む、という確信でお互いに結ばれていた」そうです。此の演奏も正に然りで、ライヴという事も有ってか、緊張感に溢れた聽き應えの有る演奏です。オイストラフの味わい深い深さを感じさせる音色にリヒテルの恰幅の良い迫力あるタッチによる雄辯さは、正にベートーヴェンの曲に相應しいものであると云い得るのではないでしょうか。小生は寧ろオボーリンとのものよりも此方を選びたい氣がします。コーガン&ギレリスのデュオと雙璧を成していると云っても過言ではないでしょう。

 

  演奏メンバーは以下の通りです:

 

  Dawid Oistrach (Violine)

     Swjatoslaw Richter (Klavier)

 

 

(1967.10.29 Live)