引き続き、80年代フランスで流行した
スプラッター小説レーベル「ゴール」叢書の記事第5弾です。

「ゴール」叢書特集 過去記事へのリンク集
第1回「フレンチ・スプラッター叢書「ゴール」を君は知っているか?!~その①~」マウス
第2回「フレンチ・スプラッター叢書「ゴール」とは?!~その②~」マウス
第3回「フレンチ・スプラッター叢書「ゴール」の魅力って?!~その③~」マウス
第4回「G.J. アルノー 特集「ゴール」叢書~その④~」マウス


フルーヴ・ノワール社のフランス・スプラッター小説レーベル
「ゴール」叢書の紹介を続けています。

今回ご紹介するのは、エリック・ヴェルトゥイユについて。
「ゴール」叢書の中で、ヴェルトゥイユは最多の8作を執筆。
また、「ゴール」叢書のヒットに便乗して他社で企画された
「マニアック」叢書(これも後日触れます)でも一冊書いて
います(「マニアック」叢書では「ベルマ」名義)。


キラキラ矢印「マニアック」叢書の『鼠の晩餐』

そんなにたくさん書いているならさぞかし面白かろう…
と考えるかもしれませんが…。うーん…、それについては
本文中でゆっくりとご説明します。

エリック・ヴェルトゥイユとは?

まずエリック・ヴェルトゥイユのプロフィールを簡単に説明
しましょう。実はこのペンネーム、個人作家ではありません。
パトリック・クェンティン、エラリー・クイーン、マーガレット・
トレイシー、岡嶋二人のような、2人の作家による合作なのです。

その正体は…

アラン・ベルニエ (1922 - 2019)
ロジェ・マリダ (1930 - 2016)

エリック・ヴェルトゥイユは上記のベルニエとマリダという
2人による共同ペンネームです。

アラン・ベルニエは1922年生まれ。
ルーヴル美術館に勤務経験もある彼は、詩人として数多くの
受賞歴を持っています。戦後はユニリーバ・グループに勤務
しながら、短編小説や詩を発表。1959年には初のロマン・
ノワール『一つの石と二つの死体』を刊行しました。
詩人として著名なことから、彼が執筆担当か?

ロジェ・マリダは1930年生まれ。
彼もまた戦後はベルニエと同様にユニリーバ・グループの
子会社で働いていました。おそらくプロット担当?

同じ企業で働いていたベルニエとマリダが出会ったのは、
ベルニエの推理作家デビューの翌年でした。当時はまだ
マリダは作家デビューしていませんでしたが、二人は
意気投合したようです。

その時期のフランス・ミステリ文壇で第一線を
走っていた巨匠コンビボワロー=ナルスジャック
のように、二人一組の共同執筆チームを組む
ことを決意しました。そしてこのコンビは、
以降40年以上も続くことになります。

とはいえ、ベルニエとマリダの2人はすぐにミステリや
ホラーを書き始めたわけではなく、当初は戯曲やラジオ
ドラマの脚本を執筆していました。この2人による戯曲は
なんと1970年代に日本でも公演が行われたとのことです。
作品は『大いなるベルリン』。アドルフ・ヒトラーと愛人
エヴァ・ブラウンを主人公とした前衛劇とのことです。
日本公演ではニコラ・バタイユが演出し、彼は俳優として
ヒトラー役も演じました。エヴァ・ブラウン役は男性俳優
のジャック・ルグレ。その他に「マキ」という謎の日本人
が新聞記者役で出ていたらしい(エヴァ・ブラウンを男性
が演じていたことから察すると、カルーセル麻紀か?)

現代音楽オペラ『Meurtres en séquence(撮影中の殺人)』
のリブレットも執筆しています。ロラン・クルーズ作曲。
1986年。ジャック・ペルヌー指揮。シルヴィー・バレイル
(ソプラノ)、フレデリック・プランタク(テノール)。
殺人計画を企む映画監督が、撮影中に俳優が殺し合うよう
に罠を仕掛けるのだが…、というお話のようです。

ベルニエ=マリダ名義で戯曲・シナリオを執筆していた2人
は70年代になるとフルーヴ・ノワール社と作家契約しました。
その当時の同社の規定で、作家の名義に関して「複数作家の
連名は認められない」のでした。そこで、合作ペンネームの
「エリック・ヴェルトゥイユ」を名乗ることになりました。

当初はフルーヴ・ノワール社の怪奇&スリラー小説レーベル
「アンゴワス」叢書においてボワロー=ナルスジャック風
の心理サスペンスを発表。70年代半ばに「アンゴワス」が
終了した後は、同社のノワール&サスペンス小説レーベル
「スペシアル・ポリス」叢書に移籍、引き続き心理サスペンス
の長編を年2~3作のペースで刊行しました。


エリック・ヴェルトゥイユのミステリ作品(抜粋)


キラキラ矢印『浸食された記憶』 エリック・ヴェルトゥイユ著

ミステリの代表作『浸食された記憶』はこんな話。

イザベルは、フランツと名乗るまったく見知らぬ男から
「友人」だと主張されて困惑している。イザベルはフランツ
のことなど全く見覚えがなく、名前にも聞き覚えがない。
にもかかわらず、フランツが語る2人の「思い出」は明らか
にイザベルの記憶そのものであり、その中には彼女にしか
知りえないエピソードもあった。

イザベルは記憶喪失に陥っているのか、それとも何かの
陰謀なのか? フランツの行動になんらかの「復讐」じみた
ものを感じたイザベルは、自分が陥っている不安な状況から
逃れるために真相を探り出そうとする。イザベルとフランツ
の間に共有される「記憶」の正体とは?

…とまあこんな感じの、いかにも典型的な「あの時代」の
フランス・ミステリです。この形式はセバスティアン・
ジャプリゾ
やらボワロー=ナルスジャックやらがさんざん
使ったものであり、よほど強烈なトリックがなければ読者
を驚かすことはできないのですが…。

まあ、実際問題としてそんなすごいトリックが発明された
作品であれば、とっくにトリック好きの日本において翻訳
紹介されているはずですよね。というわけでこの作品、
どんでん返しにはそれほど期待しないで下さいませ。

そもそもこの本のレーベル「アンゴワス」叢書は、怪奇小説
と心理サスペンス物が一緒に入っているシリーズなのです。
そのためボワロー=ナルスジャックみたいな怪奇+推理的
な設定の作品だと、最終的に怪奇ものと推理もののどちら
に落ち着くのか予想できないのです。なので「アンゴワス」
レーベルの作品は、必ずしも綺麗などんでん返しで締めて
くれなくても、文句は言えない仕様となっております。

とにかくこれはトリックには期待せず、まるで蜘蛛の糸に
絡めとられるようなサスペンスをじっくりと堪能しながら
読むのが吉、であります。サスペンスとしてはおもしろい。



キラキラ矢印『死が最後にやって来る』 エリック・ヴェルトゥイユ著

ミステリのもう一つの代表作『死が最後にやって来る』
こちらはどんな話かというと…。

マドレーヌは混乱していた。彼女は狂ってしまったの
だろうか? マドレーヌが旅先のホテルから自宅にいる
夫に電話をかけると、夫は彼女のことを知らないと言い、
自分は結婚していないとも主張したのだ。マドレーヌには
夫からそんな仕打ちを受ける覚えはない。携帯していた
免許証は、彼女の結婚前のものにすり替えられていた。

いったい誰が何のためにマドレーヌを追いつめているのか。
それとも、彼女自身の記憶に障害が起きているのだろうか。
マドレーヌは自分の記憶にも、今見えている光景にさえも
自信が持てなくなる。果たして彼女は狂っているのか?
人里離れた峡谷の村で、マドレーヌには見えない恐怖が
忍びよって来る…。

おやおや、『浸食された記憶』の逆パターンではないか。
どうしてもこの2作品を続けて読んでしまうと、「使い
回し」という印象が鼻についてしまってチョイ興ざめ
かもしれません。とは言え、これもまた読んでいる間は
おもしろい、なかなか上手く書かれたサスペンスです。

どんでん返しに期待すると物足りないかもしれませんが、
ミステリアスな展開はなかなか魅力的で、暇つぶしに
読んでみるとなかなか楽しめる佳作ではあります。


怪奇小説レーベル「アンゴワス」叢書の終了後は、
同じフルーヴ・ノワール社の推理小説&暗黒小説
レーベル「スペシアル・ポリス」叢書に移籍。


キラキラ矢印『リリアーヌとオデッセイ』 エリック・ヴェルトゥイユ著

サスペンス小説『リリアーヌとオデッセイ』
これもまた典型的なフランスの心理サスペンスもの。
金持ちの叔母の財産を狙って、姪夫婦が叔母の毒殺を
計画する。しかしそこに夫の愛人や、妻の兄、さらに
兄の恋人など様々な人々の欲望が複雑に絡んできて…。
殺人計画が二転三転するクライム・ドラマの佳作です。

またその他にもフルーヴ・ノワール社の推理小説叢書
「スペシアル・ポリス」において、小味ながらも結構
楽しめる心理サスペンスや犯罪スリラーを書いてます。

といった感じで、70年代には小品ミステリをいくつか
発表したエリック・ヴェルトゥイユ。しかしそれらの
作品から、際立ったベストセラーや受賞作が現れる
ことはありませんでした。

そのままであれば星の数ほどいたB級ミステリ作家として
忘れられていただろうこのコンビの名前を忘れがたい
ものにしたのは、1980年代にフルーヴ・ノワール社が
看板企画として力を入れた「ゴール」叢書への参加でした。


「ゴール」叢書のエリック・ヴェルトゥイユ作品(抜粋)


キラキラ矢印『薪の上でグリルされ…』 エリック・ヴェルトゥイユ著

人肉レストランもの。セルジュ・バルテルと妻のローラは
村のレストランで特製の肉料理を提供し、近隣の村からも
評判となっていた。脳、肝臓、心臓、ロースト、ステーキ…
どこをとっても絶妙の美味に仕上げている。そんな彼らの
肉料理の秘密とは…。それは、材料に人間を使用している
ことだったのだ! 犠牲者は村に立ち寄った旅のよそ者達。
旅行者の失踪とレストランとを結びつける者はなく、商売
はうまくいっていたのだが…。

ちょいとブラック・ユーモア風の味つけがされた、なかなか
楽しいカニバル・ホラー。なのですが、正直言ってあんまり
怖くはありません。読者を怖がらせようといろいろ悪趣味な
趣向を凝らしてくれてはいるのですが、過剰なグロさが逆に
馬鹿馬鹿しさになってしまっているのがご愛敬。


映画『悪魔のしたたり』

毒気の抜けた『悪魔のしたたり』(1974)といった印象かも
しれません。怖さは足りなくてもいいからとにかくグロが
読みたい! という方には、ステキなご馳走だと思います。

そして「ゴール」叢書におけるエリック・ヴェルトゥイユ作品
の弱点がここに現れています。つまり、鬼面人を驚かす奇抜な
アイディアとグロテスク趣味は冴えているのに、物語の展開に
サスペンスが乏しいこと。ただひたすら残虐な拷問と人体破壊
の描写が続いて、その反面ストーリー展開がいまいち盛り上が
らないという部分が気になってしまいますね。



キラキラ矢印『ソフィーの恐怖』 エリック・ヴェルトゥイユ著

舞台は19世紀。美しい少女ソフィーは、誰も知らない恐るべき
悪癖を持っていた。それは、人間を残虐に拷問して殺すことに
異常な興奮を抱くというものだった。

ソフィーは幼女時代から殺人を始めていた。農家に忍び込むと
眠っていた赤ん坊の喉を切り裂き、死体を解体。肉片を塩で
味つけすると、干し肉の加工場に吊るした。寝室の部屋の窓を
開け放ち、ハゲタカに攫われたかのように偽装工作することも
忘れなかった。ほとぼりが冷めた頃にソフィーは子供を失った
農家の夫婦を見舞いに訪れる。夫婦が何も知らずにわが子の
干し肉を食べる光景を眺めて、無邪気にほくそ笑むソフィー。

ソフィーの残酷な「悪戯」は、彼女が成長する過程でも留まる
ことを知らない。美しい少女ソフィーによる拷問と殺人の犠牲者
は増えていくにも関わらず、誰も彼女に疑いの目を向ける者は
いなかった。…と思われたのだが…。

…これはセギュール夫人による童話『ソフィーのいたずら』
悪趣味にパロディ化した作品です。そして、なんとも罰当たり
なことに、最終章ではセギュール夫人本人を登場させるという
神をも恐れぬ暴挙が発動ビックリマーク それも、残酷な殺人ゲームに
熱中するソフィーの祖母が、実はセギュール夫人でしたビックリマーク
という、あんまりな結末にただただ唖然。なんで舞台を19世紀
にしてあるのだろうはてなマーク …と思ってたら、こういう事だったとはビックリマーク

実はセギュール夫人は、孫娘ソフィーの残酷なゲームを知り
ながら黙認していた。夫人はソフィーをモデルにした小説を
書くことを思いつき(ただし、孫娘が行っている残酷な拷問
と殺人を、無邪気な子供の悪戯に置き換えることで)有名な
童話『ソフィーのいたずら』を書いていたビックリマーク というあまりにも
恐ろしすぎるどんでん返し。こんなことして許されるのはてなマーク

とまあ、こんな罰当たりな内容の本作。「ゴール」叢書に
エリック・ヴェルトゥイユが書いた8作品の中では一番これ
がおもしろいです。とは言え、「アンファン・テリブル」系
の名作『悪い種子』(1954)などに比べると恐怖の底が浅く、
いたずらに残虐な描写で読者を辟易とさせるB級作品では
あります。しかしそれはそれとして、ゲテモノ好きな読者
にはきっと楽しんでもらえるでしょう。



キラキラ矢印『失われた死体を求めて』 エリック・ヴェルトゥイユ著

夫ジュリアンと妻ソフィーの夫婦は、ロマンティックな
恋愛小説書いてベストセラーとなっている。誰もが羨む
このおしどり夫婦には、異常な秘密があった…。

なんと夫妻は、次々に罪なき人々を誘拐しては、屋敷の
地下室に監禁していたのだ。犠牲者の手足を切り落として
「飼育」した上に行われる拷問。そして残虐な死体の損壊。

さらには犠牲者の死体を使って行われる、フラワー・
アレンジメントならぬ狂気の「人体アレンジメント」ビックリマーク
犠牲者の手足を切り落とし、手と足を逆に配置して縫い
つけたり、眼球をえぐり出して代わりにピンポン玉を
はめ込んだりと、夫婦の異常な人体破壊はエスカレート
してゆく。

あげくの果てには、犠牲者の女性をなんと「車」に改造
するという暴挙に出る。犠牲者となった女性の手足に釘
を突き刺して車輪を固定し、背中に座席を取り付ける。
犠牲者の肉体に杭を打ち込んでハンドルを取り付け、
眼球を取り除いてヘッドライトをはめ込む…。

これは酷いよビックリマーク これは酷いビックリマーク スプラッター小説は
たくさん読んでるわけではないけど、これより酷い作品
が世の中に存在するとはちょっと考えられないです。
人間をバラバラに解体して「人体アレンジメント」だの
犠牲者を車に改造して座席にぬいぐるみを座らせるだの
シラフで考え付いたとは到底思えないトンチキな殺人
方法のオンパレードです。

いやはやフランスにも友成純一みたいな作家がいて
頑張っているんだナ、と思ったそこのあなたビックリマーク
作者の一人(文章担当)アラン・ベルニエは実は詩人
として高く評価されているんです。こんなのを書いてた
1988年にはすでに詩の分野で立派な賞をもらっているし
1990年に「詩的出版賞」、1998年には「現代フランス詩
銀メダル」を受け取るなど、多くの賞に輝いているんです。
こんな低俗ホラーを嬉々として(?)書いていた人がビックリマーク

で、奇天烈な拷問殺人テクニックのオンパレードが目を
引くこの作品ですが、面白いかと言われると微妙(笑)。
拷問と死体損壊の描写があまりにも延々と続いており、
サスペンスとか、異常な夫婦が醸し出す黒いユーモアと
いった要素の印象が薄くなっているのが気になります。

グロ要素についても中途半端にブラック・ユーモア風に
仕上げようとしているせいで、友成純一みたいな凶悪な
ゴアまでは到達できていないのが物足りず。これはただ
ひたすらゲテモノが読みたいという方でないと読むのは
キツイかも。ちなみに本作、表紙のイラストはあの異才
ローラン・トポールが担当しています。



キラキラ矢印『八十人虐殺世界一周』 エリック・ヴェルトゥイユ著

『八十人虐殺世界一周』なんてのも書いていますよ。
もちろんジュール・ヴェルヌ作『八十日間世界一周』
の悪趣味なパロディです。舞台は19世紀のロンドン。
1872年。テムズ川のほとりで女性の切断された遺体が
発見された事件が、人々の間で話題の的となっていた。
「疑われることなく多数の殺人を犯すことは可能か?」
暇をもて余した有閑貴族たちの間で議論が行われたとき、
青年貴族のフィレアス・フォッグは「可能」だと主張する。

こうして貴族たちの間で2万ポンドの賭けが行われた。
一、フィレアスは80日間の世界旅行で、80人の犠牲者を
異なる手口で拷問して殺害する。
一、警察には疑われずにこれをやり遂げる。
一、証拠として80人の犠牲者たちの右手を持ち帰る…。
という、狂った賭けだった。

ルーヴル美術館に勤務経験もあるアラン・ベルニエの趣味
なのでしょうか。ヴェルトゥイユは有名なフランス文学から
タイトルと設定を拝借してパロディ化するのが好きな模様。
『ソフィーの恐怖』(ソフィーのいたずら)、『失われた死体
を求めて』
(失われた時を求めて)に続いて、今度はなんと
『八十人虐殺世界一周』と来ましたよ。やれやれ。

ヴェルトゥイユの「ゴール」叢書でのスプラッター物の特徴
として、狂ったシチュエーションと殺害方法のアイディアは
面白いんです。けれど、残酷描写のデコレーションばかりに
力が入りすぎて、ストーリーの起伏が乏しく、サスペンスが
盛り上がらないという欠点がどうしても気になります。これ
はハーシェル・ゴードン・ルイスの映画に通じることですね

これもそう。古典名作『八十日間世界一周』をグロテスクに
パロディ化するという発想はなかなか奇抜で面白いんですよ。
なのに、内容はひたすら拷問と虐殺のバリエーションを色々
と並べて見せることに力を入れすぎ。ブラック・ユーモアの
味を出そうとして、奇抜な殺人方法を色々とひねっているの
は良いんですが、どうせパロディにするなら残酷描写よりも
もっとストーリーのひねりに皮肉をこめれば良かったのでは
ないかな。その方がブラック・ユーモアの小傑作になってい
たのではないでしょーか。とはいえ、ひと時の刺激を求めて
読むには最適のB級ホラーです。



キラキラ矢印『ご注文の怪物』 エリック・ヴェルトゥイユ著

その他にもエリック・ヴェルトゥイユは「ゴール」叢書のために、
変な小説を色々書いてます。『ご注文の怪物』では、狂える
マッド・サイエンティストの博士が女性を生体実験して人工的
に怪物を生ませようとする…。という、日野日出志のマンガ
みたいなグロテスクなお話です。

狂った科学者メリニャック博士は自宅の地下室で、美しい女性
をモルモットとして生体実験を行っている。しかも、ご丁寧にも
残虐な生体実験の様子はビデオで撮影され、スナッフ・ビデオ
としてその手の愛好家に高値で販売されていた。博士の妻で
あるコランティーヌもまた、自分よりも美しい女への憎しみから
モルモットとなる女性への拷問と虐殺に進んで手を貸している。

今日もまた博士のもとに、哀れなモルモットが届けられた。
年上の男性と結婚したばかりの美女セシルは、夫との復縁に
執着している元妻マリー=アンジュの罠にはめられ、博士の
屋敷に送り込まれたのだ。残酷なメリニャック博士は恐ろしい
研究を思いつく。それはセシルに異常な実験を行って、怪物
のような奇形の赤ん坊を人工的に受胎させ出産させるという、
悪魔の考えだった…。

全体的に残虐な拷問描写のくり返しで、サスペンスは乏しい
というハーシェル・G・ルイス方式(?)を取り入れています。
映像であればそれなりに楽しかったでしょうが、文章だけだと
どうしても途中でちょっと飽きてしまうかな。これがせめて、
日野日出志のマンガのような陰湿なねちっこさがあれば傑作に
なったかもしれません。ちなみにこの作品の表紙のイラストも
ローラン・トポールが担当していますよ。



キラキラ矢印『マルドロールの恐怖』 エリック・ヴェルトゥイユ著

『マルドロールの恐怖』は、『ご注文の怪物』と似たような話。
正直言ってネタの使いまわしかはてなマーク と思うほどですよ。
狂った女が色々な人を拷問して惨殺したあげく、蝋人形
にしてしまうお話です。お前を蝋人形にしてやろうかビックリマーク
というわけですね。イヤな死に方をいろいろ並べてくれ
るのですが、あっけらかんとしか書き方のせいかあまり
恐怖感とかは伝わってこない…。つまらなくはないけど。

タイトルは、フランス文学のパロディを好むこのコンビ
ですからロートレアモン伯爵の詩集『マルドロールの歌』
から採ったのでしょうかね。

ちなみにこれは内容よりも表紙が怖いです。できれば素手
で触りたくないほど。中身は表紙ほどには怖くないですよ。


エリック・ヴェルトゥイユが「ゴール」叢書のために書いた
スプラッター小説は他にも何冊かありますが、だいたいお話
はどれもそんなに凝ってるわけではなくて、奇抜なアイディア
と残酷描写のインパクトでビックリさせるという手法はどれ
も似たり寄ったりというべきか。それでもヘンテコな発想と
人を食ったような黒いユーモアが妙な愛嬌を感じるんです。

はっきり言ってわざわざ日本で翻訳するほどの作品はありま
せん。多少のフランス語を嗜んでいる人で、カルト的な小説
を読むのが好きな人は、フランス旅行の際に古本屋を探して
みるとよいでしょう。

さて、ヴェルトゥイユは前書きでも述べた通りもう一冊、
「ゴール」叢書に便乗して他社で企画された「マニアック」
叢書
のためにも、ベルマという変名で書いています。
その作品『鼠の晩餐』は僕のお気に入りなのですが、それ
については後日の「マニアック」叢書特集で解説する予定。

しばらくはまだまだ「ゴール」叢書の記事がつづきます。