シシリアの恋人

1970年 イタリア映画

【監督】 ダミアーノ・ダミアーニ
【音楽】 エンニオ・モリコーネ

【出演】 オルネッラ・ムーティ、アレッシオ・オラーノ、ジョー・センティエリ

シシリアの恋人

イタリアを代表する美人女優、オルネッラ・ムーティのデビュー作。

音楽もモリコーネということで、
甘くさわやかな青春映画を期待したら、ビックリビックリマーク

シチリアを舞台に、マフィアに立ち向かった少女の闘いを描いた、
硬派な社会派の青春映画だったのだ!!

シシリアの恋人
オルネッラ・ムーティ

それもそのはず、この映画はオルネッラ・ムーティの主演映画である以前に、

『警視の告白』(1970)などで、マフィアと公権力の癒着を告発した、
イタリアン・リアリズムの巨匠、ダミアーノ・ダミアーニの映画だったのですね映画

シシリアの恋人

貧しい農家の娘、フランチェスカ(ムーティ)に、

マフィアのボス、ドン・アントニーノの甥、
ヴィート(オラーノ)がひとめ惚れする。

まだ恋を知らない14歳のフランチェスカも、
美貌の青年ヴィートからの愛情を、無邪気によろこんだ。

シシリアの恋人

マフィアとの恋に反対する家族の声も、
はじめての恋に夢中の少女には、とどかなかった。

しかし、フランチェスカはやがて、
なにごとも、相手を力で屈服させなければ気がすまないヴィートに、
反発を感じてゆく。

シシリアの恋人

そしてある日、フランチェスカは、
街の中で起こった、マフィアによる銃撃事件を目の当たりにする。

ヴィートを愛しながらも、フランチェスカの心の中で、
マフィアへの怒りと憎しみがわき起こってくる。

シシリアの恋人
アレッシオ・オラーノ、ダルビッシュ似。

ヴィートへの愛とマフィアへの憎しみとの板ばさみとなって、
フランチェスカは悩み苦しむ。

いつしかフランチェスカのヴィートへの態度は、
冷淡なものになってゆく。

シシリアの恋人

フランチェスカは、ヴィートからの求愛を拒むようになり、
婚約さえも破棄しようとする。

封建的な色あいが残っていたシチリアでは、
女に棄てられた男は、負け犬として笑いものにされてしまう風潮があった。

シシリアの恋人

マフィアの大物との血縁を誇りにするヴィートにとって、
そのような嘲笑は、耐えられないほどプライドを傷つけられることだった。

ヴィートは、なにがなんでもフランチェスカを妻にしようと、
マフィアの仲間たちと、暴力に打って出る。

シシリアの恋人

フランチェスカは、ヴィートの策謀によって、
マフィアたちに暴行され、純潔を奪われてしまう。

封建色がつよく、女性が男性の所有物として扱われていたシチリアでは、
たとえ暴行を受けたとしても、純潔を失った女性は、

ふしだらな女として、肩身のせまい思いをしなければならなかった。

シシリアの恋人

フランチェスカに残された道は、
ヴィートと結婚して、結婚前に純潔を失った女という中傷から、
身を守ることしかなかった。

しかしフランチェスカは、
愛するヴィートの卑劣なふるまいが赦せなかった。

シシリアの恋人

フランチェスカは、マフィアの横暴に屈する道を選ばず、
自分の信念を通そうとする。

警察に被害届けを出して、
徹底的にマフィアと闘う決意をする。

シシリアの恋人

しかし、マフィアと闘うフランチェスカは、
マフィアの報復を恐れる家族や地域住民、

そして、封建的で保守的なシチリアの社会そのものと
闘わなければならなかった。



↑モリコーネ作曲、ミルヴァが歌うテーマ曲♪


力で相手を屈服させることしか知らないマフィアの青年と、

女性としての自我に目覚めた少女。

ふたりの若い男女の、痛々しいほどに純粋な愛の姿をとおして、
マフィアに支配されたシチリアの社会を浮き彫りにしてゆく、

ダミアーニの力強い演出が、胸に迫ります。

シシリアの恋人

おたがいに愛しあいながらも、
社会の荒廃の犠牲となり、心から解りあえない哀しみが、
やるせなく胸を締めつけます。

最近の日本映画にありがちな、
生ぬるい純愛映画が裸足で逃げ出すほどの、

深い哀しみと美しさにみちた映画です。

シシリアの恋人

少女が、マフィアも、家族も、世間も敵にまわして、
たったひとりで闘う姿を描いていますが、

フランチェスカがなぜ闘うのかはてなマーク

その理由を、シチリアの社会情勢をからめて、
奥深く描いているダミアーニ演出がおみごとです。

シシリアの恋人

けっして復讐のためではなく、
フランチェスカは、愛のために闘っていたのだ、
という点が、深く心をえぐられますね。

こんなかたちで伝えられる愛もあるんだ、
と、痛々しいほどに純粋で、
崇高なまでに美しい愛の姿が、胸に響きます。

シシリアの恋人

そして、フランチェスカをとりまくシチリアの過酷な現実。

マフィアを訴えようとするフランチェスカたちの前に、
報復を恐れた母親たちのリンチが立ちはだかるなど、

マフィアに支配された社会への、厳しい視点も冴えわたり、
無力だった少女が、人間としての誇りに目ざめてゆく過程が、
ドラマティックに描かれています。

シシリアの恋人

美貌のアイドルを主演に、美しい純愛をテーマにしながら、
その背景に、鋭い社会批評と力強い人間ドラマを描きあげ、

観る者の心に突き刺さるような衝撃を与えてくれる、
巨匠ダミアーニならではの、魂がふるえる力作です。

シシリアの恋人

気高いほどの美しさと、観るものを殴りつけるような衝撃をもった、
心に痛々しい傷あとを残す問題作です。

シチリアを呪縛する、マフィアと女性蔑視を告発しながら、
美しい恋愛ドラマに高めた、ダミアーニの情熱的な演出が、
忘れられない印象をのこす映画です。

シシリアの恋人

淳平の『赤い糸』(2008)や『君が踊る、夏』(2010)を、
正直観る気もなくてウンザリしている僕は、

日本でも、このような真摯な志の青春映画を、
どんどん企画して欲しいと思います。

シシリアの恋人

サントラは巨匠、エンニオ・モリコーネ♪

心に痛々しく響く、ダイナミックなサウンドが緊張感たっぷりです。

郷愁をさそうメイン・テーマも、しみじみとした味わいがあります。