ロスの思い出 | 大塚角満オフィシャルブログ「大塚角満のブログ」Powered by Ameba

ロスの思い出

 週末からE3の取材でロサンゼルスに行く。今年は例年以上にデカい発表が多そうなので、いまからかなりドキドキしてたまりません。

 それにしても、ロサンゼルス行くのはこれで何度目だろうか? 初めて行ったのはいまから13年前の1998年で、そのとき俺はまだ25歳(もしくは26歳)。以来ほぼ毎年、ロサンゼルスのダウンタウンに出向いている。年に1回と考えればだいたい10回くらいかなと思うのだが、じつはロサンゼルスではたびたびゲーム関連のイベントが開催されていてそのたびに取材に来ていた。おかげでいまや、正確な回数は誰にもわからない。「パスポートを見ればわかるのでは?」とも思ったが、古いパスポートはどっかにいってしまったので数えることもできぬ。なので、「もう1、2、3、いっぱい!! でいいや」とやさぐれた次第だ。

 しかしこんだけたびたび来ていると、さすがにダウンタウンの地理には詳しくなる。ホテルやイベントホールのようなランドマークはもちろん、コンビニやスーパー、ファストフード店についても、たまにしか訪れない渋谷とか六本木なんかより圧倒的によく知っている。誰かに「コーヒーが飲みたいんだけど、どこで買える?」とたずねられたら、即座に「スタバは××ホテルと●●センターの中に、あと▲▲ホテルの地下のモールにコーヒー専門店があるよ!」と教えられるほどだ。

 でもこの過信がときに、思わぬ事態を起こす。……ってこれ、どっかで書いたかもしれんけど。

 E3取材に来たニュースチームの面々は、基本的にロサンゼルスにいるあいだはずっと、ほとんどまともにメシが食えなくなり、睡眠時間も壊滅的なことになる。それくらい、忙しいのだ。それでも何か食べないと馬力が出ないので、奇跡的に時間が空いた人間が外に飛び出し、コンビニやスーパーで大量の食料を買い込んでくる。いつの間にか俺たちの間にできた不文律みたいなものだ。

 で、2年前のE3のときのこと。

 その年もとんでもなく忙しく、お菓子やビールで飢えをしのいでいる有様だった。でもある昼間、俺と女尻笠井に時間ができて買い出しに行けることになった。笠井も俺と同じくらいロサンゼルスには来ているので、地理にはめっぽう詳しい。そこで俺たちは、記事に追われている中目黒目黒や江野本ぎずもに向かって「いまお父さんたちが米と肉を買ってきてやるからな>< がんばれよ><」と言い残し、勢い込んでホテルを飛び出した。

 俺たちふたりには目算があった。じつは泊まっていたホテルから歩いて10分ほどのところに吉野家があり、過去に何度かお世話になったことを覚えていたのだ。肉と米を心から愛している笠井は目を輝かせ、「日本の特盛りの2倍強はあるスーパーヘビィ級のアメリカ牛丼を、みんなに買っていってあげましょう!! ビールも追加しましょう!!」とヨダレをたらした。

 ところが、俺たちの目論見はまんまと外れた。

 かつて吉野家があった店舗には張り紙が貼られ、「吉野家は××ストリートに移動したぜベイベ」と書かれていたではないか。地図を見ると新店舗はそこからさらに10分ほども歩いたところにあるようで、そこまで行くとさすがに、俺と笠井の知識も及ばない。まったくの未体験ゾーンであった。それでも俺たちは牛丼食いたさに、前に進むことにした。

 しかし残念なことに、俺たちは牛丼にありつくことはできなかった。なぜかと言うと、1歩進むごとに周囲の雰囲気が怪しくなってきている気がして、「これ以上は進まないほうがいいな」と判断せざるを得なくなったのだ。あとあと調べてみたらそこはまったく安全なゾーンだったのだが、知ったかぶって何かに巻き込まれでもしたらいろいろな人に迷惑をかけるので、海外に来たらとくに、石橋は叩いて渡らねばならない。

 そして帰り道。

 俺たちは「べつに戻る必要もなかったかネ」とか「なんちゃなかったですかね」とかとか強がりを言いながら、ホテル近くの勝手知ったる道まで歩いてきた。食料はけっきょく馴染みのスーパーで買うハメになり、俺たちは大量の物品を両手に抱えて交差点で信号待ちをする。しかし、そのとき--。

 笠井の真横に立っていたラテン系のおじさんが、急に身体を折って屈み込んだ。……と言っても怪しい動きだったわけではなく、靴紐を直そうとしゃがんだだけである。俺はその様子が見えたので何も思わなかったのだが、おじさんの動きが死角だったらしい笠井はとたんに肝を潰した。

「ひゃ、ひゃいぃぃいいい!!!」

 かわいそうなくらいビビってしまった笠井はあられもない悲鳴を上げ、ピョンと50センチほども飛び上がったあとに足をもつれさせて倒れそうになった。しかしもともとおじさんは危害を加える気などなかったので、「この男は何をそんなに驚いているんだ……?」という顔でスタコラサッサと歩いていってしまう。その姿を呆然と見送った笠井は「あ、あ~……たまげたぁ……。お、脅かすなよぉ……」と言ってから、チラリと俺の顔をのぞき見た。俺は、ビビりすぎの小動物のような笠井の動きを見て耐えられなくなり、思いっきり吹き出す。

あはははははははっ!!! ビビりすぎだろ笠井!!」

 すると笠井も俺につられて腹を抱え、

「だ、だって、やられるかと思って……!! あ、あは。あはははははっ!!!

 とヤケクソ気味に笑ったのだった。