油パンと侵略おばば | 大塚角満オフィシャルブログ「大塚角満のブログ」Powered by Ameba

油パンと侵略おばば

 とある日。

 早めに会社を出られたおかげで、自宅近くにあるスーパーに寄ることができた。閉店間際のタイムセールが行われている時間だったので、コレ幸いと3割引きやら半額になっている惣菜軍団を買ってやろうと思っていた。

 スーパーに突入してすぐに、俺は焼きたてパンコーナーににじり寄って行った。ここはそれなりに大きなスーパーなので、パンコーナーが独立して設置されているのである。見ると思った通り、売れ残りの惣菜パンの半額セールが行われている。俺は「しめた!」と心の中で快哉を叫び、大きなトレイにカレーパンやらメンチカツバーガーといった“油系”のパンをつぎつぎと載せていった。俺は油が大好きなのだ。カロリー最高!! 揚げてから時間が経ってしまったからか、トレイは揚げパンから分泌される油でテカテカになっている。でもそんなことはいっさい気にせず、俺は計5個の揚げパンをトレイに載せて、ホクホク顔でレジに並んだ。

 レジでは、60がらみの元気なおばちゃんと20代くらいの女の子がふたりで、客の対応をしていた。おばちゃんはいかにもな“下町おばば”で、余計なことをしゃべりながらパンを袋に詰めている。俺は客の流れの影響で、このおばちゃんに対応してもらうこととなった。

「おねしゃす」

 レジに5個のパンを載せたトレイを置きながら、俺はおばちゃんに言った。じつにさりげなくも何気ない、日常的なレジ風景である。するとおばちゃんはギロリと俺のナリを一瞥し、思いも寄らないことをのたまった。

「はいはい~! ……袋、持ってるわよね! ウン、あるね!

 ……? 一瞬、何を言われたのかわからなかった。でも、おばちゃんの視線が俺が手にしていた通勤用トートバックに注がれていたことから、どうやらコレのことを指しての発言だったんだと理解する。なので俺は、アホ面で言った。

「フクロ……ああ、ありますね、フクロ」

 するとおばちゃんはニカッと笑い、まったく予想だにしなかったことを言ったのだ。

じゃあダイジョブね! 2円引いとくから!!

 言うが早いかおばちゃんは神の早業でレジを引っ叩き、購入金額から2円の割引を実行する。そして「え? 何の話??」とマヌケ面でポカンとする俺のトートバックの口を勝手にガバッと開き、薄いビニールでくるんだだけの油パンをドカドカと詰め込みだしたではないか!! 言っておくがこいつはエコバックでも何でもない、俺的にはキチンとした通勤カバンなのだ。当然中には、PSP、ニンテンドー3DS、ポメラ、スマホ、ICレコーダーといった商売道具の電子機器や、資料、書類といった“紙モノ”もたくさん入っている。しかしそんなことはお構いなしに、おばちゃんは「ホラ、入る入る! ダイジョブね!」と言って、じつに強引にパンを詰め込みやがったのだ。すでに2円の割引をされてしまっているので、俺は「え……あの……ちょっと……」とあいまいなことしか言えない。けっきょくおばちゃんの侵略になすすべなく棒立ちになるばかりで、俺は“完敗”を喫したのだった。

 それでも、釈然としないままスーパーで買い物をし、パンが詰まった通勤カバンをぶら下げて会計をすると、それを不憫に思ったらしいレジのお姉さんが「これ、そのパン用に」と小さめのレジ袋を手渡してくれた。侵略おばちゃんとはまるで違う対応に、俺は涙が出そうになった。

 そして家に帰ってカバンの中身を確認すると、薄いビニールから染み出たパンの油で一部の書類が汚れてしまっていた。エコを考えてレジ袋を減らす……という考えには賛同するし、俺も家から買い物に行くときはエコバックを持っていくけど、あのおばちゃんの対応はあまりにもあんまりなのでは……。

 晩酌で買ってきたパンを齧りながら、俺はいつまでも腹を立て続けたのだった。