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紅葉を見に

※このエッセイは2005年ごろに書かれたものです。


 とある秋の休日。久しぶりに時間ができた。しかも快晴! バイクに乗ろうワーイワーイ! ということで、前日の夜からあれこれとツーリングの計画を練り始めた。ツーリングというものは、かなり明確な目的がないとなかなか出発できないものである。どういうことかというと、漠然と○○方面に行って温泉にでもつかりたいな~、とか、なんか甘くておいしいものでも食べに行こうかなあ~、って感じの計画では決して旅立つことができない。明確に「埼玉県名栗村の"さわらびの湯"に行って4時間800円ナリの温泉に浸かって、そのすぐそばにある甘味屋に立ち寄ってケーキ食って帰ってくる! くわっ!」って感じの計画を立てねばいけないのだ。ライダーはみんなそうだ。そうに決まっている。

 今回の俺の目的は"紅葉"である。秋に生まれたことも関係してか、俺はとにかく秋の景色、雰囲気が大好きなのだ。当然、紅葉も大好物である。群馬にいたころはわざわざ見に行かなくても秋になれば勝手に山が燃えていたので"紅葉っていいなぁ"なんて思うことはあまりなかった。しかし田舎から離れるにつれて郷愁がこみ上げてくるのか、秋になると寂しくて寂しくて目をウルウルさせながら遠く北北東方面を眺める日が多くなってしまった。

 俺が住んでいるさいたま市から日帰りでいける紅葉の名所の筆頭は、何と言っても日光だろう。いろは坂最高! というわけで日光方面に出撃することを本気で計画したのだが、調べてみると日光の紅葉の見頃はすでに終わってしまっているらしいのだ(11月下旬)。せっかく行って悲しく積もる落ち葉だけを踏みしめて帰ってくるのも泣けるので、日光行きは断念。続いて群馬の田舎のすぐ近くにある妙義山も考えたが、あまりにも自分の庭すぎるところなのでこれもやめた。となると、残るは埼玉県内ということになる(強引)。けっきょく、朝起きた感じでテキトーに決める、ということにした。さすがライダーは計画性が高い。

 翌朝、8時に目が覚めた。思った通りの快晴。さっそく準備を始めようとしたのだが、休日ということでいろいろな用事をこなさねばならない。ふだん、家に帰るのが遅いから休日にできることはやってしまわなければならないのだ。それらを黙々とこなしているうちに、時計は正午を大きくまわっている。非常に複雑な心境になり、いじけてバイクに乗るのを止めようかとも思ってしまったのだが、乗らなくてストレス溜まるのは俺自身なので、明るく爽やかに埼玉県の地図を広げた。いまから行ける紅葉スポットはかなり限定される。俺はすぐに目的地を決めた。それが毛呂山町にある"鎌北湖"だ。

 ここは取り立てて有名なスポットではないと思う。規模もそれほど大きくない人造湖であろう。でも一度も行ったことないし、家からだと片道1時間半くらいの距離なので、いまから行くには非常に都合がいい。俺はすぐに革ジャン、革パンで身を固めてバイクに跨った。今日の相棒はロードスターウォーリア1700だ。排気量1700ccの怪物バイク。長距離走るときは、こいつに限るぜ。

 家を出発して浦和所沢バイパスを走る。交通量はふつう。富士見川越有料道路を抜けて、川越市内に突入する。川越は蔵造りの街並みとサツマイモがそれなりに有名なので、休日になると観光客がけっこうやってくる。この日も非常に街が賑わっていた。途端に、湖まで行くのをやめて川越観光に切り替えようと思ったのだが、それもあまりにも根性なしなので何も言わずに川越通過。県道15号をひたすらまっすぐ毛呂山方面に向かった。

 ところどころ渋滞したが予定通り、家を出て1時間半後に鎌北湖に到着した。明らかに町中よりも気温が低い。意外なことに、観光客の数が多い。都内からだと高速道路を使えば比較的簡単に来れるから、俺のように中途半端な気合のやりどころに困った人々が集まってきているのだろう、と勝手に納得した。

 紅葉はなかなか美しかった。小さな溜池なので、30分足らずで外周を回れてしまう。本当に久しぶりに観光っぽいことをしていることに、無性に感動してしまった。

 散策後、湖畔にあるおみやげ屋兼食堂でとろろソバを食べた。値段は950円もする。瞬間的に「高っ!!」と思ったが、空腹に負けて注文した。

 ところがこのソバ、じつにうまかったのである。"新ソバ始めました"という垂れ幕に惹かれてソバにしたわけだが、非常に細い麺には独特のコシがあって、香りも強い。ツユがとても薄味だったのだが、それがまたソバの香りを引き立てていて、とっても"ナットク!"の味になっておりました。950円、高くない! このソバ食うためにまた来てもいいな、と思える味でした。

 そして無事、夕方には家に到着した。すぐに複数の人から「とっとと原稿見てくれ」等の電話がかかってくる。あーもう休日終わりかぁと少々げんなりしたが、久しぶりにツーリングっぽいことをしてゴキゲンだったので、俺はおとなしく、ノートPCの電源を入れた。