いつもと変わらないはずのその日、私は数年来の重たい仕事を進めるための資料づくりに追われていました。
パソコンの前でにらめっこしているところで、仕事時間中にはめったに電話してこない親父さんから電話が入ったのです。

「はい。まはろです」

「お。いま時間大丈夫か」
「少しなら。いいよ」

「ちょっと病院にきとるんやけど、先生がご家族を呼んでください言いよるんやけど、来てもらえんろうか」
「は!?病院???」
「ちょっとリンパが腫れて社保に行ったら、紹介状書かれてこっちに来たんやけど、家族の方をと先生が・・・」

いつも人生楽しそうな親父さんの声には力がありません。そりゃそうだ。
家族を呼んでくださいなんていい話であるわけがない。

十中八九がん告知だよ。そりゃ。

「わかった。すぐ?」
「いや、まだ検査しよるけん終わってから夕方くらいになると思う」

かいつまんで事情を話すと、うちの優しい職場の兄さんたち、それこそ言ってあげさい。はよはよと、気持ちよく送り出してくれるのです。涙涙。大好きないい職場。

合間に兄(同じ市内に家族と暮らしています)にも電話

「親父さんから電話あった?」
「いや、ないけどどうした?」
「医者から呼び出された。たぶんがんだと思う。それも喉頭がん」
「はぁ!?それはいけんやないか。」
「とりあえず言って話聞いてくるから、帰り実家によってくれるかな?」
「ん。わかった」

そんなわけでご指定の時間にかけつけた私。

市内では唯一の公立総合病院ですが、夕方ともなると、そんなに患者さんはいません。
ぽつんぽつんと席が埋まっている外来の待合室に行き、○○の身内のものですがと言うと
ほどなく検査を終えた親父さんが出てきました。

「大変やったね」
「おー、すまんねー」
「どがいしたん?」

検査検査で疲れきってる親父さんでしたが、私の顔を見るとちょっとほっとした様子。

なんでも二日前、急に首のリンパが腫れ、かかりつけの病院で検査をして痛み止めをもらったものの、ここでは診断できないからと総合病院を紹介されたとのこと。

「そっかぁ、まぁ咽頭がんか喉頭がんだよねー、そんなに進んでないといいねー」

かねて、彼ののどの声枯れについては、ちょっとおかしいと感じていて、早く病院にかかる
よう繰り返し言ってはいたんですよね。首根っこ捕まえてつれていかなかったことを私は一生後悔すると思います。

でも誰よりも早く行っていればと悔やんでいるのはおそらく本人やと思ったので、最初に引きづってでも病院連れていかなくてごめんねと言ったきり、二度とそのことは口にしていません。
 

喉頭がんの最初の異常は声がれが多いそうです。

それが続くようなら必ずお医者さんにかかってください。


約束の時間から15分ほど遅れて診察室へと通されました。
先生は、30代前半くらいではないかと思われる。まだ若いなぁという印象の先生。
慎重に正確に事実と見解を述べてくれたことや、あらかたがんだろうと予測していたこともあり、親父さんともども割と冷静に受けとめました。

何よりも撮影された写真を見れば、素人でも本能的に一目瞭然で

 

あらぁ~、こりゃがんだわ。がんがん。がん以外の何物でもないわぁ。真っ黒黒

 

そんな声帯奥の写真でした。
しかも、CTの結果では右のリンパに浸潤していて、軟骨を溶かしていると。

先生は正確には検査の結果が出てみないとわからない。僕の診断ミスとか勘違いだったらそれが一番いいと前置きしたうえで、


「もしこれが悪いものだったとした場合に、治療方法は通常3つあります」
と説明をはじめました。

①手術 ②抗がん剤 ③放射線。


ただし、80歳以上になると、抗がん剤は使わない方針とのこと。
なぜなら、副作用が致命傷になる可能性があるほど体に来るダメージが強いからだと。
81歳という年齢の割には体力もあり、ぎりぎり使える判断ができなくもないが、まずは手術が一番確実。
ただし、それにも条件があり、他に転移がなければに限る。
転移がある場合は、手術はできない。
手術するとなると、声帯とその周辺、リンパも含めてごっそりとるため、声を失ってしまう。他にも大変なことがたくさんあるだろう。

と。もっと淡々と説明されるのかと思ってましたが、意外にもえらい親身になって考えてくれる先生です。

「このまま何もしなければどうなるんでしょう」

「このまま何もしなければ、腫瘍が呼吸を圧迫し、最後は息ができなくなります。
病気になるといろいろな苦しみがありますが、人間息ができない窒息していくというのは
とても辛い症状です」

言葉もない。

「ふまえて今後の話です。まず、転移があるかないかを確認します。胃カメラをとってもらうことと、ここにはない機械でPET-CTというものがあり、これで全身撮影すると転移の状況がわかるものです。がんは糖を使うので、糖がたまっているところが光って、転移の状況がわかります。これを受けてください。」

県庁所在地の中でも2件にしかないという特殊な機械らしく、どちらに行くか聞かれる。


「先生が親しいとかおすすめの病院はどちらですか??」
「どちらがということは・・・ただ県立病院の場合は、その日のうちに結果が出ると思います」
「早い方がいいので、じゃあそちらでお願いします」

もろもろの連絡のため、月曜日に再度診察に行くこととなり、帰宅後は家族会議ですよ。

兄にメモをとっていた先生からの説明を再度自分の確認もかねて読み上げ。

今後のつきそいについても相談しました。
兄は非常に慎重な人のため、とにかく検査の結果が出てからよとのことで。

帰宅後、猛烈な勢いでググりつつ、喉頭がんについて調べまくったのはいうまでもありません。
しかし、とにかく情報が少ない。それになんでかわかんないんですけど、相反する情報が書かれてるんですよね。転移しにくいと書いているとこもあれば転移しやすいというのもある。

生存率が高いというのもあればそうでもないというのもある。特に父のような高齢のケースで自分が闘病記書いてる人なんて早々いないので、参考になるようなそうでもないような。

 

ただ、はっきり言えることは、この日以降、相当喉頭がんに詳しくなりましたよ(笑)