その②~手術当日 | 我が息子の闘病記 ~ 小児がんとの戦い ~

我が息子の闘病記 ~ 小児がんとの戦い ~

2020年5月22日、息子が10ヶ月検診にて肝芽腫と診断される。
そのまま病院へ緊急入院し、闘病生活開始。
これから先、何が待っているか分からないが、息子が病気と闘うために頑張った記録を残すため、記録を公開して行くことにした。

 手術当日……病棟で目を覚ますと、私はスポーツドリンクだけを飲んで、令ちゃんの手術の準備が整うのを待った。

 ここから先は、手術が終わるまで私も食事の類ができない。

 看護師さんから呼ばれ、手術室に向かう令ちゃんのところへ見送りに行く。

 手術室やICUは当然のことながら撮影も禁止なので、一般病棟に戻れるようになるまでは、写真撮影もお預けだ。

 

 手術の準備が整っても、令ちゃんはお腹が空いている方が気になるのか、ずっと口をパクパクさせていた。

 でも、やっぱり普段と様子が違うことは分かるのだろう。

 どことなく不安な表情で周囲を見回し、ベッドが動き出すと途端に泣き始めてしまった。

 

 本当だったら、最後まで手を握っていてあげたかったけれど、仕方がない。

 大丈夫だよ、頑張れるよ、と声をかけて見送った後は、再び病棟でひたすら待機。

 

 執刀医の先生の話では、令ちゃんの腫瘍は中肝静脈という血管の内部にまで食い込んでいるようで、この部分を切除するのがとても難しいとのことだった。

 なにしろ太い血管なので、切断して再びくっつけることは困難。

 そのため、腫瘍の食い込んだ部分だけを抉り取り、そこに別の血管の一部を移植することで穴を塞ぐという大手術。

 スーパードクター直々に「難しい手術です」と言われると、こちらも緊張してしまう。

 

 その後、待つこと数時間。

 朝の10時に麻酔が終了し、本格的に手術へ入ったと聞かされた。

 その後、看護師さんが病棟に入って来る度に、今度こそ移植かと身が引き締まる思いだったが……何故か、全く声がかからない。

 たまに声をかけてもらっても、「まだ分かりません」としか言われない。

 

 悶々とした気持ちのまま、横になって祈ったり、ベッドの上で座禅を組んで瞑想したり……。

 気がつくと、時刻は昼の2時になっていた。

 令ちゃんの手術が始まってから、4時間近く経っている。

 今頃、令ちゃんはどうなっているのか……我慢も限界に達したところで、執刀医の先生が直々に病棟へ。

 いよいよ出番かと思っていたのだが……先生から聞かされたのは、意外な一言。

 

「お父さん、全て終わりました。お子さんは、手術に耐え切りました」

 

 一瞬、何を言われているのか分からなかった。

 その後、改めて先生から、令ちゃんの手術は肝切除だけで終了し、移植の必要はないと告げられた。

 

 この結果を告げられた時、途端に肩の力が抜けて、その後はよく覚えていない。

 スーパードクターでも難しいと言われた難手術だったが……結果は大成功!

 穴の開いた血管は令ちゃんの腎臓の血管の一部をもらうことで塞ぎ、血流も良好!

 肝臓の右半分を失う大手術だったが、令ちゃんはしっかり耐えきってくれたのだ!

 

 先生の腕が素晴らしかったのは、勿論その通りだと思う。

 実際、普通の病院で行えば、切除だけでも6時間近くかかったのではと思われる難手術。

 それを、先生は4時間近くで切除に成功したのだから、やはりスーパードクターの名は伊達ではなかった。

 そしてなにより、令ちゃんが頑張ってくれたからこそ、切除だけで済んだのだろう。

 これで、少しでも肝機能や腎機能に障害が残っていたら、こんなに上手くはいかなかったはずだ。

 

 その後、令ちゃんのお腹を閉じるのに1時間と少し。

 更に、ICUに移動するまで2時間以上かかり、令ちゃんと再開できた時には、既に外は暗くなっていた。

 

 ICUの機器に繋がれた状態で、令ちゃんは静かに眠っていた。

 呼吸も心拍数も、そして血流も問題無し。

 さすがに術後なので鎮静をかけ、呼吸は人工呼吸器を使っていたけれど、それでも令ちゃんは安らかな寝顔だった。

 

 その日は妻と一緒に自宅へと戻り、久しぶりに夫婦一緒に寝ることができた。

 これから1週間は……せめて、3日~4日はICUで安静にしなければいけないはずなので、その間は付き添いもできないのが少し心配だと話しながら……。

 

 だが、この時、私達はまだ想像さえしていなかった。

 翌日、令ちゃんが今までになく、とんでもないミラクルを引き起こすということを……。