面接をした病院オーナーと事務局長は兄弟で高橋という人であった。
一時間後には採用という話になり、3日後にホステスを辞め、1週間後その病院に初出勤をした・・・・・
加速度的に変化していった。
ラウンジのオーナーやお客さんからもかなり引きとめられた。
でも今思えば、もう引き返せる状態ではなかった感じだったのだろう・・・・
なんの躊躇もなかったように記憶する・・・・
目の前の扉がパッと開いた瞬間に何も考えず、扉の向こうに足を踏み入れてしまい、後ろを振り返るともう扉がなくて、引き返すことができないような状態。
何か突き動かされるように事はトントン♪とすすんでいった。
気が付いたらホームレス専門の病院に就職していた。
それから10年私はその病院でかなりエキサイティングに、人生を楽しんだのだった・・・・
私はこの病院で人間の体に寄生しているウジやシラミの大群、体に生えた黒かび、洋服を脱がした途端飛び立つ、孵化したハエ、気を失うような・・・・人生の中で嗅いだ事がない強烈な悪臭、長靴と皮膚が一体化した象のような足、ガビガビに針金のようになった毛髪・・・・
人間の愚かさ、弱さ、汚さ、憎しみ目撃することとなった。
通常看護師は感謝される存在だと思い込んでいた。
その観念はすぐさまひっくり返されることとなった。
「看護婦さん、ありがとう・・・」と言われる変わりに・・・・
「このアマァーー(尼)何しやがる・・・」
私心の声(なにっ・・・て血圧測るねんけど・・ここは病院やし・・・・)
「メシも食わせんと!!クソ女ーーーぁ」
私心の声(クソって・・・・すやかてあんた血吐いてるし・・・・)
「メシないんかぁ~ババぁーーー!!」
私心の声(メシって・・・ここは食堂ちゃうし・・・・)
残飯バケツに顔を突っ込む人に注意すると。
「なんも食うとらんやろ!!!!見てただけや!!!あほんだら!なにぬかしとんねん」
私心の声(口にキャベツついてるし・・・・)と罵声を浴びることとなる。
運び込まれる人の98%は泥酔状態で皆、暴言を吐き、暴力的な人達であった・・・・・・・
でも私にとってはかなり面白い世界だった。面白いと感じれる私がいたのである。
それと違う側面として、この病院に働く必然性があったのだ。
アル中で気が狂って自殺した、母道江に対してできなかったことを、再体験するための場所であり、そしてアル中を理解するために必要な時間だったのである。
この病院には道江もどきがぎょうさんおった・・・・・びっくりするほど。
その時には母道江の投影だとは思いもしなかったから、ホームレスに対してすごい腹がたったし、感情的になった時期があった。表に出すことはなかったけど・・・・自分の心の中はもう火の車だった。
本当にあの時のホームレス達には申し訳なかったと思うし、登場してくれたことに感謝するばかりである。
この病院には10年いた。母道江の事を昇華するのに10年もかかったということである。
時間はかかったが、どんな心理学の本やセミナー、カウンセリグンよりも実際には効果があったように思うである。
言って寒いけど・・・・あえて言うと・・・このホームレスとの10年間の関りでインナーチャイルドはきっと癒された(ううううっ寒い・・・・)ことだろう。
道江の事も理解できたし・・・
辞める頃には本当に、ここの西成人(びと)が愛しく感じ始めていた。
でも愛しくなるのであれば、もうここに入る必要はない。
次は道江が私になにを教えたかったのか・・・・なにを託したのかを知るためのステージに結果的に入ることとなった。
汚れたホームレスの体を全身ピカピカにして、病棟に上げることが嬉しかったし、楽しかったしイキイキしてた。
「気持ちええわ~」と言ってくれる人も多くなった。私の事を名前で覚えてくれるホームレスも増えた。「なぁ~入院さしてぇな~」って言われると断りきれない、人のええおばちゃんになってた。
看護師仲間初め、ドクターや救急隊員、事務員から「〇〇主任はなんやかんや文句言うてるけど、ほんま好きなんやな~」とよく言われた。
汚ければ汚いほど私はワクワクしてくるのである。
そしてあの時のリヤカーに乗せてくれたおっちゃんは天使だと・・・今思う。
天使といえば、頭に輪っかがあって白い服をきて背中に羽根が生えている人を思い浮かべるけどが、神さまからの使いはきっと、そこここに在るのではないかと思うのです。
だって私は・・・・いつも姿は違うが、事あるごとにこの「羽根もげ輪なしの天使」に助けられてきたからな・・・・・。
八百万の神は雲や太陽、雷、虹とかと言った自然に見がちでであるが(もちろんこれも神さまであることに違いないけど)、そればかりではなく、神さまは歌舞伎町にも西成にも渋谷センター街にもきっといるはずである。
きっとあのヤクザの男も「羽もげ輪なしの天使」だっと思う。
それに母道江は究極の「羽もげ輪なしの神様」である。