2021年4月1日(木)日経朝刊21面(投資情報)に「監査新常態 信頼回復への道 上 「ビッグ4」再編の足音 「エンロン」20年 英で分離論 独立性・競争促進カギ」との記事あり。

不正会計が明るみに出たのを発端に世界の金融市場を揺るがした米エンロン事件から20年を迎える。

大手監査法人の一角を占めた米アーサー・アンダーセンが解散に追い込まれ、現在の4大法人「ビッグ4」体制につながった。

今なお会計不正は世界で絶たず、英国ではビッグ4の分離に向けた動きが進む。

「監査の質」を高めるための取り組みは新たな段階に入りつつある。

「いよいよ始まったか」。2021年に入り、ビッグ4の英国法人を巡る動きが慌ただしくなっている。

3月上旬、KPMGは英国の企業再生事業を米投資ファンドに売却すると発表。約550人の幹部職員や従業員が新会社に移る。

同事業は最近では経営破綻した英老舗旅行会社、トーマス・クック・グループの清算を手がけたことで知られる。

独立系の企業再生コンサルティングとして英最大級の会社が誕生する見通しだ。

2月にはビッグ4のひとつ、デロイトも英企業再生部門の売却を決めた。

背景にあるのは英国で高まるビッグ4の分離論だ。

監査法人を所管する英財務報告評議会(FRC)は20年7月、4大監査法人グループに対し、監査とそれ以外の運営分離を求める指針を出した。

英競争当局の18年の調査ではビッグ4の売上高に占める監査報酬は2割程度にとどまり、大半を非監査事業で稼ぐ

コンサル部門に収益を頼る構造が監査事業の質に悪影響を及ぼしていると問題視されたのだ。

さらに英政府は3月18日、「監査と企業統治の信頼回復」と題する監査市場の改革案を公表した。

小売りのBHSや建設会社カリリオンなど大企業の経営破綻が近年立て続けにおき、資本市場の番人である監査法人の甘さに批判が募るなかで検討が進められてきた。

英国に限らず、会計不正は世界各地で絶えず起きている。

欧州では独ワイヤーカードの粉飾が発覚。

日本でも東芝やジャパンディスプレイなどで明らかになった。

米国市場では中国企業にも疑念の目が向けられる。

国内では非監査事業の分離については慎重論が目立つ

そもそも日本では監査法人が可能な非監査業務は限られている」(金融庁)。

監査先企業に非監査業務を提供することは、独立性の観点から限定されている。

監査先以外に顧客がほぼ限定される日本でも、大手法人による非監査の収益比率はじわりと高まっている

大手4社のうち10年前まで遡れる、PwCあらた監査法人を除く3法人の非監査業務の収入の割合は前期は23%

10年前の16%より大きい。

監査法人からは非監査業務の意義を強調する声が出ている。

「監査先でない企業に非監査業務を提供することは、企業の開示の拡充にもつながり、監査の質の向上に寄与する可能性がある」(PwCあらた監査法人の井野貴章代表執行役)

顧客企業とのなれ合いを排し、監査法人の独立性をどう保つかという課題は中小監査法人にも重くのしかかる。

「長年にわたって数社の上場会社を主な被監査会社としており、報酬依存度が高くなっている」。

2月下旬、公認会計士・監査審査会は金融庁に対し、中堅の監査法人原会計事務所の行政処分などを講じるように勧告した。

倫理規則に違反する「特別監査報酬」の受領や「贈答」をしていることなども不適切と判断した。

国際会計士連盟(IFAC)の審議会では、1社から受け取る監査報酬が全体の15%を5年連続で超えれば監査業務を停止するという新たなルールへの議論が起きている。

国内での対応が今後の焦点となる。

米国のエンロン事件や日本のカネボウ事件後の課題も生じている。

監査法人の再編が進んだ結果、大手による寡占構造が鮮明になった点だ。

英国では主要上場350社の監査の97%を4社が占め、日本でもビッグ4の監査業務シェアは日経平均株価を構成する225社の96%を占める

米国のS&P500種株価指数を構成する企業では99%に達する。

「準大手が育ち、品質のいい監査法人への選択肢を拡大する必要がある」(金融庁)。

これまでも15年の東芝の不正会計の発覚などを背景に「ビッグ4に次ぐ規模の監査法人を育てる『ビッグ4プラス2』機運が金融庁で高まった」(業界関係者)。

太陽監査法人や東陽監査法人など5法人が対象となり、5法人の一角である太陽監査法人は吸収合併し規模を拡大したが、人員規模は1千人強と大手の中で4番手のPwCあらた(3千人規模)に届かない。

監査法人の競争を促しながら、監査の質をどう高めていくか。

英国で起きているビッグ4再編論はひとつの対応策だろう。

ほかの国・地域にも広がっていくならば、監査法人の事業モデルは根本から変革を迫られる。