2021年3月11日(木)日経朝刊15面(投資情報)に「よくわかる会計新ルール ② 第三者目線でリスク提示 監査工程を「見える化」」との記事あり。

マダガスカルのニッケル事業で2020年7月に約550億円、21年1月にはさらに約300億円の減損損失計上を発表した住友商事。

実はこれに先立つ20年3月期の有価証券報告書をみると、この事業の資産価値の見積もりについては様々な仮定があることから、監査を担当する会計士が「高度な不確実性を伴う」と注意喚起していた。

会計士が第三者の目線で財務諸表のどこにリスク要素があるかを明記する新制度が21年3月期決算から始まる。

監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters=KAM)」と呼ばれる。

住友商事やトヨタ自動車、ソニーなど約50社は20年3月期に早期適用した。

KAMは有価証券報告書に付随する「監査報告書」に記述する

リスク開示の対象となる項目は固定資産やのれんの価値、貸倒引当金、繰り延べ税金資産など

EY新日本監査法人が早期適用の状況をまとめたリポートによると、記載項目のうち見積もりに関連するものがおよそ7割を占める。

これらは「不確実性と経営者の判断を伴う」(EY新日本の山中彰子氏)といい、会計士は特に念入りにチェックしている。

米国や欧州連合(EU)加盟国、英国でもKAMのような制度の導入は広がっている。

日本では東芝などの会計不正事件で、監査法人が決算書類をどのようにチェックしたかが問題視された。

これまでは財務諸表が適正かどうかをシンプルに記すだけだったがKAMによって監査の力点や工程などが明らかになり、透明性が高まることが期待されている

日本公認会計士協会の調査では、KAMの記載に向けて経営者や監査役、監査人との間でコミュニケーションの深さが増したという。

前もってリスクを開示することで、不正会計の抑止につながるとの期待もある。

減損などの可能性を開示することに抵抗を示す経営者がいる一方、投資家側からは「経営陣がリスクを把握している点ではむしろ評価につながる」との見方がある。