2021年1月11日(月)日経朝刊4面(国際)に「アントが金融持ち株会社 融資仲介や資産運用を集約 当局の監督強化に対応」との記事あり。

アリババ集団傘下の金融会社、アント・グループは金融持ち株会社を設立し、融資仲介や資産運用、保険販売事業などを集約する方針。

日本の共済に近い「相互宝」はアントからの切り離しも検討する。

当局の指示を受け、事業構造の透明性を高める。

金融持ち株会社は親会社であるアント本体と、金融事業を手掛ける子会社の中間に設ける。

アントが収益源とする銀行への融資仲介のほか、投信などの運用商品や保険の販売事業、アントが筆頭株主で中堅、零細企業向け融資を手掛ける網商銀行も加える。

スマートフォンで売買できるMMF(マネー・マーケット・ファンド)、「余額宝」を運用する天弘基金管理も収容する可能性が高い。

アントは当局から「金融ライセンスが必要な事業はすべて持ち株会社に収めるよう求められている」と打ち明ける。

10億人規模の利用者を持つスマホ決済「支付宝(アリペイ)」を含めるかは流動的だが「当局の要請があれば従う」という。

デジタル人民元の普及を狙う習近平(シー・ジンピン)指導部にとり、圧倒的な顧客層やサービスの厚みを持つアリペイは強力なライバルになり得る。

監視強化で競争力格差を埋めたいとの意向を持つとみられる。

当局が求める金融リスクの圧縮にも積極的に応じる。

象徴が日本の共済に近いサービス内容を持つ「相互宝」だ。

相互宝はアリババの主要顧客である零細企業経営者や個人事業主が主な対象だ。

がんや心筋梗塞などをカバーし、給付金の総額を加入者全員で分担する。

ただ当局は長期的な支払いの安全性に懸念を抱いているとされ、事業範囲から外す案も検討する。

保険会社並みの資本を求められれば、事業効率の大幅な低下が避けられないためだ。

決済事業を上回る収益源に育った融資仲介も見直しを迫られている。

アリペイ利用者の融資ニーズを銀行に紹介、アントは銀行から手数料を受け取る収益モデルだが、当局は手数料率が高すぎると指摘する。

手数料率は銀行が受け取る利息収入の3割に達する事例があると当局はみる。

少しでも収益を積み増したい地方銀行はアントを経由して積極的に資金を貸し出しているが、手数料を差し引いた後の収益は低く、金融リスクになりかねない。

アントのスマホを通じた与信は2兆元(約32兆円)を上回る

当局は最終的なコストが利用者に転嫁されかねないとも懸念する。

アントは「融資仲介では顧客のコストを増やさないと約束した」ほか、若年層向けの与信枠削減などに乗り出している。

当局はアントに限らず金融会社に十分な資本確保を求めている。

一連の措置がアントの収益性に与える影響は大きく、20年11月に延期になった新規株式公開(IPO)は「まだ時期的なメドはたっていない」という。

4兆円規模を見込んでいた調達額も下振れは避けられそうにない。

ただ、一部で報じられたスタートアップ投資などからの撤退については「そのような指示は受けていない」と否定した。

アントはIPO延期の理由に当局の監督方針の変更を挙げる。

当局はアリババ本体に独占禁止法に違反しているとして調査に入ったほか、アントも中国人民銀行(中央銀行)などが聴取に踏み切った。

アリババやアントに対する習指導部の見方は厳しい。

アントの経営権を実質的に握る馬雲(ジャック・マー)氏が金融行政を批判する発言を繰り返したことを問題視する当局者は多い。

20年12月の中央経済工作会議では「独占禁止と資本の無秩序な拡大防止」を掲げ、スマホ決済で5割超のシェアを握るアントへの警戒をにじませた。

アントの見直し案に対し、より厳しい姿勢で接する可能性は否定できない