6-1

 

あ、なにかのけはい。

 

あれは・・・。

 

おと?なんのおと?

 

目をあけてるの?

見えない。あ、閉じてるんだ。

 

死んだのかな?目を開けられる? 

 

におい。何のにおい?いろんなにおい・・・。

 

(わ!)

 

目を開けて目の前に浮かぶ何かに驚いて飛び上がりました。

 

(やっぱり死んでる。ぼくはしんじゃったよ)

 

「なぜしんだとおもうの?」

目の前のそれが・・・・言った!

 

(だって・・・だってきみ、天使でしょ?死んだら天使にも会えるはず)

そうしてぼくは、目の前のそれをじっと見た。

 

「やだわ!」

それは少し不満そうな顔をして手を腰にあて首を振りました。

 

「死ななくたって天使には会えるのよ、あなた何にもしらないのね?それにあたし、天使じゃないわ!」

 

(ちがうの?)

 

「んーん、まぁ似てるけど、ちがう!

アタシはここにすむ精霊なの!」

 

(せいれい…?)

 

「そう、あと、あなた死んでないわよ。ほら!」

そう言って精霊はほっぺたを思い切りひっぱった!

 

(いたい!)

 

「ほらね」

 

(いたいよ、わかったけど、じゃぁここはどこなの?)

 

「ここ?ここは森の中よ、あたしたちの仮のすみか」

 

(森の中?森って?森・・・・?)

 

「まさかあなた森も知らないの??

森ってたくさんの植物がすんでるとこよ。

そこにアタシ達は住んでるの!

森をしらないなんて、へんなにんげんねぇ・・・・

わかった!じゃ、森のこと教えてあげる!

みんなも紹介してあげるわ!!

こっちにいらっしゃい!」

 

ちょっとうれしそうに、その妖精はツイツイと指を曲げて呼びました。

 

(目を覚ましたと思ったら、死んでなくて生きていて、森というところに今いるらしくて、その森には精霊というへんな小さな生き物がふわふわしながら自分に話しかけてて・・・・。

そんな状態で生きてるって言えるのかな??)

 

と思ったのだけど、死んでいてもいいや、と思いました。

なんだか面白そうなこの夢のような世界にいるのも、悪くないな。

少し探検してみよう。

 

「こっちきて!他の仲間にも紹介するわ!」

そのふわふわの妖精がふわふわ浮かびながらそう言いました。

 

(きみの名前はなんていうの?)

 

「なまえ?なまえなんかないわよ、めんどくさい」

 

(でも、君を呼ぶ時なんて呼べばいいのさ、おーいいとか、おまえとか・・・)

 

「えーそれはいやだわ、じゃ・・・・・グリンてよんで」

 

(わかった、でもなんでグリンなの?)

 

「ほら!だからめんどくさいのよ、なんでとか聞くのへん!」

 

(わかったよ、じゃ聞かないよ、グリンよろしくね)

 

「そんなこと聞かれたら怒る妖精もいるのよ、気をつけたほうがいいわ!」

 

(うん、わかった、じゃ名前だけきくことにするよ)

 

(うん、それがいい)

 

そうしてグリンのあとについていきました。

 

 

(わぁーーー!!)

グリンが進む先を見てフルルは驚きました。

 

緑色の葉をたくさんつけた大木や、黄色や赤の花の咲く植物や、茶色のふかふかな土には緑の苔が生えていたり、何よりも、いいにおいがするのです。

 

(これは、これは、なんだろう?これは何のにおい?)

フルルは次から次へと質問をするので、グリンは疲れてしまいました。

 

「ほんとにもう、何にも知らないのね。

あたし答えるの疲れたわ!

植物たちみんな答える意思があるから、少しずつ聞きなさいよ!

 

あんたは、いったいどこのひと?

そういえば、あんたのなまえはなんなのよ?

どこのひと?」

 

(僕はどこから来たの?ここはどこなの?)

 

「ここは、ラピュスの森よ。

あなたはラピュスのひとじゃないの?

あ、アタシ達と話せるのに違うってことは・・・?青い石を持ってるの?」

 

(青い石?もってないけど、なんで?)

 

「じゃぁ、あんたはどこから来たのかしら?」

 

(僕はどこからきたんだろう・・・・?わかんない、おもいだせないよ)

 

「ぜんぶ忘れちゃったの?

ま、いいわ、わるいひとじゃなさそうだし、しばらくここでゆっくりするといいわ。

おいしい果物もあるから、たべてもいいわよ」

 

妖精のグリンはそういうと、森のなかのことを説明していきました。

 

(ぼくは、だれ?なぜここにいるの?

ぼくも妖精なのかな?

そのうちおもいだせるだろうか?)

そう思いながら、とりあえずこの場所で少し休もう、そう思いました。

 

 

6-2

 

「まだ寝ているの?」

とグリンは高い木の上から言いました。

 

知らないうちに寝たのかな。

朝がきたみたいだ。

ラピュスの森という場所で、ぼくは寝てしまったらしい。

にしては、なんと気持ちいいのかな。

 

そんなふうに考えていたら目の前にグリンはやってきて、また腰に手を当てて口をとがらせました。

 

「あんたはやはり人間らしいから、何か食べなきゃ死ぬと思うの。

とりあえず何も知らなそうだし、これから食べられるものを教えてあげるわ!」

 

そうして素早い動きで近くを飛び回りました。

 

「これは食べられる、これもね。

これは日持ちするの、いくつか持っているといいわ」

 

グリンは早口でいろんな実や花を指差しました。

 

目の前に小さな白いものが見えました。

どこかでみたことある気がしました。

 

(あ、この白い小さなものは栄養の粒?)

 

「栄養の粒?なんなのそれ。

あ、だめよ!

それはにがの実、しぶくて食べられないわ!

それよりこっち、これはちいさいけど栄養があるの。

1日一粒でも大丈夫なくらい。

ちょっと食べてみて」

 

(あ、おいしい!)

 

「いくつか持ってるといいわ。

あ、食べたら必ずお礼言うこと」

 

(なぜ?)

 

「ハアー?当たり前でしょう?

みんな精霊が守って生きているんですからね。

精霊にお礼をいうんじゃない。

しかしまあ、ほんとになんにもしらないのね。

あんた何者?」

グリンは、また腰に手を当てて、首を振りながら言いました。

 

(なぜそんなに教えてくれるの?)

 

「ここは守ってくれてるオサがいるの!」

グリンは言いました。

 

(オサ?それはえらいひと?)

 

「ちょっとついて来て!」

グリンはまた指をくいくいとやると、森の小道を進んでいきました。

 

 

奥へ奥へしばらく進んでいくと、いきなりそれは現れました。

 

(わあ!)

思わず声をあげました。

 

見上げるほど大きな木。

いえ、見上げてもてっぺんははるか先で見えないくらい大きな木でした。

 

「すごいでしょ。でもこれは一部。

これが私たちの森を守ってくれてるのよ。

オサは、すごくえらいひとなの。

ここの木たちのすべてを取り仕切ってるの。

この森を守ってくれてる。

だからここの森はこんなに豊かなの。

そのオサから、あんたを助けてやってくれっていわれたのよ。

仕方なくあたしは、いろいろ教えているわけ!

あんたは人間らしいし、オサからいわれたんじゃなきゃ普通、人間なんか助けたりしないわ!

あたし人間キライなの。

いえ、キライなわけじゃないの。

だけどキライな人間もいるんだ。

人間てさ、平和が好きなくせに平穏がキライな可笑しな生き物なのよね。

ここでも、最近いろんなことが起きてる。

わけがわからないわ。

あ、あんたも人間だったわね」

 

(ぼく人間なのかな?)

 

「少なくともあたしには人間にみえるけど?

でも、青い石を持ってないのにアタシと話せるということは、人間じゃないのかなあ?」

 

そのとき、グリンの髪がピンと立ち、隠れていた長い耳が二つ、まっすぐ上に立てて、目をくるりんとまわしました。

 

「あ、オサがくるわ!

いい?あんた、敬意をはらうこと!

絶対によ!」

そういって、グリンはヒュッと消えました。

 

取り残されたあと、風が吹いたかと思うと、そこには大きな何かの気配がしました。

自分を見つめている何かの気配を感じるのですが、グリンのように見えませんでした。

 

ですが、じっと目を凝らせば、それは大きすぎてわからなかっただけだと気がつきました。

 

見上げるくらい大きなダレカ、さっきの木のように大きなダレカ、そこには茶色の長いヒゲがみえました。

 

 

 

6-3

 

(あなたが、オサ?)

 

( そ う だ )

オサは答えました。

 

 

(なぜグリンは、僕のことを助けてくれたの?って聞いたら、オサに頼まれたって言ったよ。

どうして?)

 

(お前を、連れていく場所がある)

オサは答えました。

 

(どうして?)

 

(お前が行きたい場所だからだ)

 

(そんなことしらないよ)

 

(はっはっは。一時的に忘れているだけだ。お前は十分わかっているよ、心の奥底ではね)

 

(でもほんとうにしらないもの)

 

(だいじょうぶ、少しずつ気付いていく。まずは進むことだ。進めばわかる)

 

(ぼくのことも?オサはぜんぶわかっているの?)

 

(すべてではない。

ただ少なくとも、この世界でお前が必要だということ、そしてお前の世界にも、お前とこの世界が必要だということは、わかっている)

 

(ぼくの世界?)

 

(それぼど時間がない。ここからそう遠くないところに古い城がある。そこで待つといい。

グリンにまた案内させる。

一つ言っておく。

この世界でお前は、今のように自由に話すことはできないだろう。でも心配するひつようはない。

出会えるものには必ず出会う。必要なことは必ずやってくる)

そう言ってオサは消えました。

 

 

 

いつのまにか、グリンが隣に来ていました。

が、隣にいるグリンはさっきまでいたグリンとまるで違いました。

なぜなら隣のグリンは、ひざをつき深々と頭を下げていたのですから。

 

オサがいなくなった後、グリンに声をかけようとして、いきなりグリンは元のグリンに戻り、目をぐるりとさせて口をとがらせました。

 

「まったくあんたったら、オサに生意気なことばかりいって、ひやひやしたわ!オサは寛大だからゆるされたけど、気をつけてよ!!」

そういってじろりとにらみました。

 

「さあ、さっさと城へいかなくちゃ。ついてきて!」

グリンはそういうと、ひゅっと飛び上がりました。

 

 

 

 

どのくらい歩いたのか、いえ小走りに森の中を進んでいき、どんどん森は木が生い茂りツタが絡まり暗い森となって行きました。

 

「さ、ついたわ、ここよ」

 

グリンが指さすほうにはツタの山が高くそびえていました。

 

よく目を凝らすと、緑やツタが絡まって覆い隠している荒れ果てた大きな建物であることがわかりました。

 

「外からはこんな風にしかみえないけどここ城なのよ」

そういうとグリンはひゅっとまた消えました。

 

(グリン?グリン?どこ?)

 

トントンと音がしたほうを見れば、ツタの中に見えるガラス窓の中から、グリンはにこりと笑い、(はやくいらっしゃいよ)と言っているようでした。

 

(ぼくは君みたいにはいれないよ)

 

そう言うとグリンはがっくりしたような顔をしてまたひゅっと消えたかと思うと、いきなり目の前に現れました。

 

「なんで来れないのかしら?ほんと・・・人間はめんどくさいんだから!」

そう言うとまたツイツイと指を曲げました。

 

「ここにドアがあるでしょ。その下に小さな穴が掘ってあるの。そこにもぐって中にはいって」

フルルにそう言いました。

 

(穴?ドアじゃなくて?)

 

「あのね・・・ここは入れないっていったでしょ。ドアとか窓は動かないの!」

 

確かにドアの下には緑に埋もれた穴がありました。たぶん入れそうです。

ゆっくり用心しながらそのほら穴をはって行くと、ちゃんと中に入ることができたのでした。

中は暗くて何も見えませんでした。

 

でも暗さにも慣れていくと、普通の部屋があるのがわかりました。それは本当に普通で、今までだれかが住んでいたように、さして汚れてもいない場所でした。

 

(ここにはだれかいるの?)

 

「だあれもいないわ。ここ

は守られているからきれいなの。

それに誰も入ってこれないのよ。

さあて、あたしの仕事はここでおわり。

あんたを確かに案内したからね」

グリンはそういってまた、ひゅっと消えようとしました。

 

(グリンいっちゃうの?!ぼくはどうしたらいいの?)

 

「後は自分でね。あ、最後に言っておくけど、もしあんたが困ったことがあっても、あたしを呼ばないでね!

あんたには、サポートしてくれる人が現れるってオサがいってたしね。じゃあねー」

そうしてグリンはひゅっと消えました。

 

(どうしよう)

 

そう思った時、なにか感じました。

胸が少しドキドキしました。

 

(なんだ?あ、誰かが来るの?だれが?)

 

誰かわからないけど、会えるのがうれしいようなそんな人が来ると思いました。

 

(そうか、その人がぼくのサポートの人なのかな?僕が会いに来た人なのかもしれない。いやぜったいそうだ、きっとこの感じなんだ)

そう思いました。

 

そして、その城の部屋の中で、その人が来るまで待っていることにしました。

とりあえずは、持ってきたものを食べて、少し横になろう。

そう思って寝ることにしました。

 

 

6-4

 

遠くの反対の扉のほうで誰かの声が聞こえて、フルルは目を覚ましました。

 

その声は一人ではなく何人かの声に思いました。そうしてその人たちが城の中に入ると、自分のほうへ歩いてきました。

 

「きゃー!だれかいる!」

最初にきた女の子が叫びました。

 

「だれ?だれかいるの?」

2人目の女性は僕を見て言いました。

 

「だれなの?ここでなにをしてるの?」

3人目の女の子がいいました。

 

「こんなとこになぜいるの?」

 

「あんたなまえは?」

 

「ナ・・・マ・・エ・・・?フル・・・ル・・フルル・・・名前ある・・フルル!」

 

(フルール?フル・・・ル・・・そうだ!僕はフルルという名前だったんだ!思い出した!)

 

フルルは自分のなまえはフルルだと思いだしてうれしくなりました。

 

(この人がサポートの人なんだね!)

フルルはいきなり女の子に抱きつきました。