「毎日ピアノの練習をしていても
なかなか思うように上手にならない。
進ちゃんは
子供の頃


上手くいかないと
悔しがって
よく泣いていたわね。」

晩年先生は
何度も昔を振り返って

よく
そうおっしゃっていた。

「でも涙を流していても
ピアノを弾くことをやめなかったわ。


先生ができるまで
やってごらんと言うと
ずぅっと弾いていた。

憶えているでしょ?」

「はい。先生はいつも
レッスン室から一度お部屋に戻っていらした。」

「そうね。
そうだったわ。
さすがね。よく憶えているわね。」

「そして、ちょっとでも壁を越えると
その時の課題をクリアーした瞬間
先生はレッスン室に戻っていらして」


「そうだったわ。

進ちゃん

できるようになったじゃない。

できるようになるのだから

そんなに涙を流さなくても
いいじゃない?

そう言ったわね。」