「指切りゲンマン、指切りゲンマン」

先生は何度もそう繰り返した。

僕は

「先生、嘘ついたら針千本のますって言うんだよ。」
と言うと
先生は


「あら、そうだったわね。でも、針千本のますって
そんなことできるのかしら?」

「やっぱり握手がいいわね。両方のおててを出してご覧。」

先生は僕の両手を包み込むようにして
握手をした。

「今日のレッスンはこれでおしまい。
進ちゃん
今日はいっぱい笑って
いっぱい泣いたわね。

ジュース飲んでから
お家に電話してお迎えにきてもらおうか。」

先生は僕をソファーまで誘導して
座らせた後に

一旦部屋から離れ
お盆に二つのコップを乗せて戻ってきた。

普通なら
そこで

ジュースを飲んで終わるのだが
先生は
ある意味独特だった。

「進ちゃん

今お盆には
コップがいくつ入っているかな?

一つかしら?二つかしら?」

「二つだよ。」

「どうして二つなの?」

「ううん、氷の音が二つ聴こえるから。」

「そう、正解。」

「先生は今
二つのコップを持ってきました。

同じ形のコップを持ってきました。
そこにジュースが入っているわ。
オレンジジュースね。

一つのコップに
氷が一つ。
もう一つのコップにも氷が一つ入っているわ。

進ちゃんはそれがわかっている。
では
次。

二つとも同じ大きさの氷かしら?」

「ううん、ううん、違うよ。」

「どうしてそう思うの?」

「一つの氷は高い音がするの。風鈴みたいな音の高い氷。

もう一つの氷は
それより低い音だから
こっちのほうが大きい。」

「そう。そのとおり。

お家にある氷は
どんな音の高さかな?」

「お家にある氷はもっと低い音だよ。」

「じゃあ、もっと大きな氷がお家にあるのね。」

「うん、そうだよ。」


「では」

先生は一つのコップを持ってそれを揺らした。

「この氷の音は
ドレミファソで言うとなにかしら?」

「ううん、ドよりちょっと高いやつ」

3歳のころから
僕は別の先生にピアノを習っていた。

今でいうリトミックのような教育だけは受けていたことになる。


バイエルだけは
その先生にならっていて
バイエル終了後に
米谷先生とお会いしたことになる。




「じゃあ
もう一つのコップの氷はどうかしら?」

「ううん、ドより低い。ラよりもちょっとだけ高い」

「そう、正解。」