先生は僕をピアノの前に座らせると

今度はご自身の椅子をピアノの前に置き直して

座った。

 

「進ちゃん、ピアノの蓋を

開けてごらんなさい。」

 

 

「鍵盤の一番左端の

音を鳴らしてごらん。

 

それから

鍵盤の

一番右端の音を

鳴らしてごらん。」

 

僕は言われた通りに鳴らした。

 

弾いたのだ。

 

「一番左端の鍵盤

 

一番右端の鍵盤

 

低い音から高い音まで出るわね。

 

さて

ピアノの鍵盤は

全部でいくつ

あるかしら?」

 

 

「あれ?いくつだろう?」

 

僕は考え込んでしまった。

 

先生はすかさず

 

「88鍵盤あるのよ。

 

ところで

進ちゃんが持っているクレヨンは24色ね?」

 

「うん、そうだよ。」

 

「ピアノの鍵盤は

 

88色のクレヨンと

同じことになるの。

 

あなたが持っている

クレヨンより

多いでしょ?

 

いっぱいあるでしょ?」

 

「わぁ、そうだそうだ。

いっぱいある。すごぉい。」

 

「そうね。

 

その鍵盤を

例えば強く弾いたり

弱く弾いたりする。

 

例えばこんな風に。」

 

先生は

とても弱い音と

とても強い音を弾いた。

 

 

 

 

「こうやって

強い音を出したり

弱い音を出したり

 

そうね」

 

今度は

ピアノのペダルを踏んで

 

いくつもの音を重ねた。

 

「ね、こういう音もあるのよ。

 

さっき先生が弾いた曲は

いろんな音を

組み合わせたの。

 

それは

どういうことかと言うとね

 

88色のはずのクレヨンを

 

いっぱいいっぱい増やしたのよ。

 

そうやってピアノを弾いたら

 

何百

何千

 

何万

 

もっともっと

 

いくらでも


 

クレヨンを増やすことになるの。

 

 

どう?

魔法のクレヨンよ。

 

クレヨン入れるものに

困っちゃうわね。

 

 

素敵でしょ?」

 

「うんうん、わぁ

いいなぁ。

 

素敵だよ。先生。

楽しいねぇ。」

 

僕は

 

さっきまで

泣いていたことなど

忘れて

 

 

更にはしゃぎはじめた。

 

思い切り

笑っていた。

 

足をばたばたさせて

喜んでいた。

 

「でもね、お絵かきというのは

クレヨンよりも

絵具を使った方が

もっともっと

 

素敵なものになる。

 

だから

進ちゃんは

これからは音のお絵かきをするのだから

 

クレヨンは卒業して

 

絵具を使うことになる。

 

もう幼稚園じゃないのよ。

小学生になったのだから

絵具を使うの。

 

 

そうすると

鍵盤は

 

いろんな色を出せる

クレヨンよりもすごい

 

絵具なの。

 

それを

 

いっぱい手に入れたことになるわ。

魔法の絵具。

 

どう

 

こっちのほうが素敵じゃない?」

 

「うん、うん。素敵だ素敵だ。」