椎名林檎 | noblog ~黒木音人の7♯9thミタイナ♂ニナルンヤァ~!!!!!!!!~

椎名林檎

"ギブス"


by椎名林檎






そんなに強いわけじゃないのに


マフラーの隙間を縫って入ってくる


 


最愛の彼と歩いているのに 刺すように冷たい風は


意図も簡単に記憶の切れ端を靡かせた


 


 


今更と言えば今更 毎年の事には変わりない


付き合い始めたのも 別れたのも同じくらいの季節 でも


ある時を境に連絡を絶って ちょうど二年になるだろうか


あの頃の私は何時死んでもいいと思っていた


普通の人の言う幸せな時間や


掛け替えなのないであろう出来事たちも


空っぽでいっぱいになった胸には何一つ響かなかった


いや 響かなかったと言えば嘘になる


正確には 響いた事は認めたくなかった


何もかもを放棄したい欲求と 


放棄できない自分との間で板挟みなっていた


そんな瞬間を二人で過ごしていたにも拘らず


見た目には不自然さの欠片も見当たらないような 


恋人をしている自分がいた 


 


唯一 自分を動かしていたとすれば


『今を大事にする』ということ


私は 自分に言い聞かせるかの様に


口癖の如く彼に言い聞かせた


愛していなかったわけじゃない でも


卒業が決まってすぐに愛せなくなった


 


約束をしたくなかったのは


こうなる事がわかっていたからなのか 


それともこうなるためだったのか


それはわからない わかっているのは


愛せなくなったことそれだけ


言葉を馬鹿に出来るほど大人じゃなかった


言葉が連れて来る哀切さだけは知っていた


 


何一つ確かな事など存在しない でも


それを裏切ってでも人は約束したがる生き物


わかっていても 私はそれを酷く嫌った


 


抱き合ったままずっと眠っていたい


いくつになっても二人で愛し合いたい


誰しもが憧れ 恋焦がれる願望も


私だって例外じゃなかったけど


 


人を傷つけたくないなんて 


よく言えたものだと思う


本当は自分が傷つくのが怖いだけ


 


 


もしかすると知っていたのかもしれないけど


今になってやっとそれを認めることができそうに思った


 


 


 


知らず試着室の床に蹲っていた


 


鏡に映った白いドレスは眩しすぎて


今考えていたことが思い出せなかった


 


ただ一つだけ


 


もしあの頃の自分と話す機会があったら


今の私は何を話してあげるだろう


 


 


 


そう思った