過去の一時期の記憶がないことを不安に感じる人がいる。
心理学でも「解離」など、やや病的な印象でとらえられているし、より生きやすくなるには、その欠落した記憶を取り戻す必要がある…と思っている人は多いようだ。

辛い記憶がある時、私たちはそれを思い出さないようにすることがある。思いだすと、感情が沸き、辛くなるし疲れるからだ。「忘れる対処」はそれを避けることができる、かなり有効な対処だ。

一方、たまに「忘れる対処」が今の自分の生きづらさの原因になってしまっている場合もある。

通常、ある辛いことを経験すると、そのことに迅速に対処できるように、感情が発動する。この時感情は自分の命を守るために、かなり強力に(命がけの10レベルの反応で)発動してしまう。この感情のボリュームを下げるために一時的に「忘れる」が、通常は、しばらくすると自分も落ち着き、事案をある程度冷静に見返すことができるようになる。

そうなると、「この事案には5ぐらいの反応をすればいい」という分析ができ、その出来事への過剰反応も落ち着き、「問題は続いている」という思い込みも終わり、「過去のこと」と認識され始める。

ただ、忘れる対処が強すぎると、この合理的な分析が進まない。「何か危険なことがあったが、その後幸運にも何も起こっていない(だけ?)」という中途半端な状態が続くのだ。この中途半端な状態が中くらいの警戒レベルを持続させ、生きづらさのもとになってしまうことがある。

ただ、冒頭の「記憶がない」は、このようにあるテーマを強烈に忘れた場合だけでなく、たまたまその時期、ほかのことに意識が向いていた、あるいは忙しかったなどの影響で、純粋に忘れている場合も少なくないのだ。

前者のような本当の意味の記憶のトラブルになっている人は、かなり少ない。そしてそのような方の「生きずらさ」は、かなりの強度だ。
もし、あなたが多少の生きずらさはあっても、普通に働け、普通にある程度の人間関係が保てている人なら、たとえある時期の記憶がなくても心配することはない。数十年前の過去記憶にこだわるより、今をいかに充実させるかに意識を向けた方が、ずっと建設的だ。

 

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