ガンコロリン

 

放送開始間近のドラマ「ブラックペアン」の予習として、

原作とその後の作品を読破。

 

■「ブラックペアン1988』のあらすじはこちらに。ネタバレしています。

 

『緑剥樹の下で』は、

嵐の二宮和也さん演じるオペ室の悪魔、渡海征司郎(とかいせいしろう)の「ブラックペアン」のその後。

 

短編集『ガンコロリン』に収められています。

 

※かなりネタバレしていますので、ご承知おきくださいませ。

嫌な方は避けてください。すみません。

 

 

 あらすじ

 

日本人医師セイ

 

雨期が近づいている、ノルガ王国の首都ステラ・キャメル。

内戦が始まり、半分は瓦礫と化している。

 

そんな中、青空教室で黒人少年に勉強を教えるセイ。

彼こそ、渡海征司郎、その人だ。

「俺の本業は、学校の先生ではなくて、医者なんだから。

それよりも、今日は繰り上がりの足し算を教える方が大切だ。

いいか、ここが繰り上がると10の位が、、、。」

少年は、セイから「勉強すれば、家族を守れる」と聞いて、勉強したがっているのだ。

 

セイは、長老が「呪いの木」と忌み嫌う「ベルデグリ」の木の下に、黒板を立てかけて、勉強を教えている。「この木を見ていると、故郷を思い出す。故郷の木は白いから、シラカバというんだ。」ベルデグリの木は、懐かしく日本を思い出す木なのだろう。

 

 

長老に呪いの木のことをとやかく言われようと、セイはとり合わない。

「俺が教えたいのは、英単語や計算じゃない。この世には呪いやたたりなんかないってことさ。闇雲な恐怖が、子どもの未来を殺すんだ。」と。

 

 

ベルデグリの木の呪い

 

夜中に、セイは教え子の少年に起こされる。妹が「呪いの木」にたたられて、すごい熱が出たという。

駆けつけるセイ。

「これは、たたりでは無い。マラリアだ。だが、薬は、こんな小さい子には使えない。毒性が強すぎるんだ。子ども用のピルがないんだ。今やれる事は全身を冷やすことだけ。薬を使えば副作用で死んでしまう可能性が極めて高い。」

そして少年の願いに答えられず、歪んだ顔で言うセイ。

「たたりなんか絶対ない。病気にかかっただけだ。だが、俺がいても意味がない。薬も使えず手術もできないヤツは医者じゃない。単なるでくのぼうだ。ごめんな。俺には何もできない。」

 

2日後、少女は空に還った。

だが、セイは呪いの木の下を離れない。幼くして亡くなった少女の哀悼と鎮魂のためだと村人は理解していたが、訪れる患者はめっきり減り、治療費の代わりに食料得ていたセイは、やせ衰えていく。

そんな時、呪いの木の近くの水を求めてやって来たインパラが、蚊の大群に襲われるのに遭遇する。

 

呪いの木の崇りの正体

 

そのインパラの死骸をセイは長老の家に持ってくる。

「頼むから一緒に来てくれ。ノルガの子どもたちのためだ。」

長老はにらみつけたが、セイは必死にインパラの死骸を指差す。

「俺はベルデグリのたたりの謎を解いた。話を聞いて欲しい。」

ちょうど長老の家を訪れていたノルガ王国の国王リヴィ・サンディエに助言を受け、長老はようやく耳をかす。

「この世には祟りなどありません。少女が空に召されたのには、理由がある。

俺がもっと早くその理由に気づいていれば死なずにすんだのだが。」

崇りの源は、「モスキート(蚊)」だった。

ベルデグリの木は、水が少しでもあるところに生育しているのだが、同じく、その水を求めてやってくる蚊。

木の周辺にある水の近くで、子どもや動物たちは、蚊に襲われ、マラリアになってしまったのだ。

ベルデグリの木の崇りの正体は「蚊」だったのだ。

「殺虫剤で一網打尽にして、後は水面に油を引けばいい。そうすればボウフラは呼吸ができずに死に、蚊はわかなくなるでしょう。」

その日を境に、ベルデグリの木の崇りは潰滅(かいめつ)した。

 

予見

 

崇りの謎が解けてからは、村人たちからの心づくしの食べ物が絶える事はなかった。

ある日、国王の使者より、参内するように求められる。

「医者が必要ならそう言え。遠慮は無用だ。」

セイは、酒を飲み干すと立ち上がる。

 

招かれた王宮で、国樹ベルデグリの木の崇りの謎を解いた礼を国王から言われる。

セイは、王に言う。

「崇りが消滅したという事実は語り継いで言ってくれ。事象が消滅しても、知識と言う形に変わり残り続ける。それが積み重なったものが、医学というものになるんだ。」

王は、力強くうなづく。

「ああ、絶対に忘れない。そしてトカイ、お前は永遠の勇者として称えられるだろう。」

「そんな事はどうでもいい。死んでしまえば、消え失せるだけ。ならば生きているうちに記憶を少しずつ手放していったほうが楽だ。」

 

王は、トカイに言う。

「見てもらいたいものがいる。私の息子だ。」

王の息子、アガピ、7歳。寝ていて話すのは平気だが、走ると苦しいと言う。

 

セイは予見する。

「この子は、1年以内に空へ還るだろう。無理だ。とてつもなく高度な手術が必要になるが、設備がない。」

ノルガ王国は今、各国の領事館を追い出しており、外国の病院に患者を紹介できなくなっている。内戦勃発時に、王が「各国の領事館が一斉に退去を考えてるから、和睦したほうがよい」という忠告に耳を傾けようとしなかったからだ。

「国が滅びても医療は残る。王族が滅びても住民は困らない。だが医療が壊れたら住民は大変な思いをする。だから政治と医療を分離しなければ、民が滅びてしまう。」

セイは、その場で手紙を書き、王子に手渡す。

「これはまだ見ぬ医者への手紙で紹介状と言う。君の病状を書いてある。これを医者に渡せば話が早い。最も医者のところに無事にたどり着ければの話だが。」

 

そのとき、大音響がとどろき、政府軍の侵攻が始まる。

セイは、戦闘に向かう王の代わりに王子を国境なき医師団の宿営地まで送り届けることになる。王子と付き人の女性をカバンから取り出した包帯でぐるぐる巻きにし、言う。

「この窮地を脱出できなければ、どうせ死ぬ。だから死んだ気で走れ。」

そして手渡す1枚の布には赤い十字架が染め上げられている。

「もし俺が倒れた後、敵と遭遇したら、こいつを掲げろ。これは世界共通怪我人の印だ。戦闘が国際法を守っているなら、これで突破できる。それじゃあ、行こうか。」

 

 

その後、、、

 

 

半年後、国境なき医師団から、1人の少年が日本の大学の心臓外科チームに移送された。

(そういえば、ドラマ「チーム・バチスタの栄光」では、アフリカの内戦で被弾した少年ゲリラ兵士・アガピが東城大学医学部付属病院の桐生先生のところに搬送されていた)

少年アガピとともに運ばれた資料の中に、1本のビデオがあった。そのビデオは今も病院地下室の片隅にひっそりと置かれているという。

 

 

国境なき医師団の宿営地の入り口に設置された監視カメラのビデオ。

赤十字で身を包んだ少年と女性、背後に1人の男が付き添っている。

兵士がむけた小銃にも臆せず、男は告げる。

「米国のサザンクロスホスピタルのドクター・ミヒャエルにこの子を紹介してくれ。拡張型心筋症の第4期で一刻の猶予もない。いいか頼んだぞ。俺は急ぐ。詳しいことは、その手紙に書いてある。」

付き添いの男は背を向け、ステラ・キャメルに戻るという。

「あの街に忘れ物してきたんだ。忘れ物は、俺の生徒で、大切な友達だ。それにせっかく100の位の覚え方を思いついたから、今すぐ教えてやりたいんだ。」

兵士に医者かと思っていたがお前は教師だったのか、と問われる渡海。

「いや、どちらでもない。俺は、医者と言うには非力だし、教師と呼ぶには不誠実すぎる。」

寂しそうに笑って、画面から姿を消す。

映像が途切れる寸前、遠くで銃声が響き、画面は暗転する。

 

 

ブラックペアンの件の後、すぐに日本を旅立ったのだろうか。

いろいろな重荷を背負い続け、責任を感じ続け、命の大切さを重んじ、医師であり続けようとする、渡海先生。

衝撃のラスト、渡海先生がご無事だといいです、、、。